ルールに隠された意図を読め!
第31回「手当と交通費と税金と」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第31回「手当と交通費と税金と」


安田

基本給がどえらく低くて、その代わり住宅手当とか家族手当がいっぱい付いてる会社ってあるじゃないですか。

久野

最近は少ないですね。

安田

そうなんですか?社員も会社も社会保険料が安くなって「ウィンウィンなんだ」って社長さんは言ってましたけど。

久野

それはあり得ないです。家族手当とかも全部含めて、社会保険がかかりますから。

安田

いつ頃からそうなったんですか?

久野

いや、昔からそうですよ。

安田

じゃあ、経営者が手当を増やしたがるのはなぜですか?

久野

増やしたがる理由があるとしたら、残業手当の単価を下げるため。あと賞与とかも、基本給が低ければ2カ月分とか出しやすい。

安田

たとえば給料は下げにくいですけど、手当だったら「いつでも無くせる」みたいなことはあるんですか?

久野

いや、そんなことはないですね。まことしやかに、そういう噂がありますけど。

安田

単なる噂ですか?

久野

不利益変更法理というのがありまして。今まで支払われてたものを「何の説明もなく、合理性もなく、なくす」というのは禁じられてます。手当だからといって、切っていいわけじゃない。

安田

じゃあ何のために分かれてるんですか。基本給と手当って。

久野

経営者の意図はもちろんあります。例えば、役職手当とかって役職として頑張ってほしいっていうこと。

安田

役職手当は、役職から外れたら当然なくしてもいいんでしょ?

久野

役職の解任にも制約があるんです。落とした経緯とか、合理的な理由が必要です。

安田

社長の「鶴の一声」とかもありそうですけど。

久野

社長が気に食わないから解任するとかは、許されないですね。

安田

なるほど。じゃあ手当も給料と変わらないってことですね。

久野

基本的にはそうです。

安田

基本給が低くて手当がたくさん付いてる会社と、基本給が高くて手当がない会社と、求職者のメリットは変わらない?

久野

変わらないですけど、最近の若い子はと基本給の高い職場を選びますね。

安田

それはどうしてなんですか。

久野

やっぱり手当って「突然なくなっちゃたりする」というイメージが強いと思います。

安田

給料と違って手当は増えていきませんしね。

久野

はい。やっぱり基本給が高いほうが、求人には有利だと思います。

安田

逆に、手当0っていうのは、どうなんですか?イメージ悪いですか。

久野

いや、ありだと思います。

安田

「なんで、うちは手当ないんですか」って、社員に言われませんか?「よそは住宅手当が出てます」とか。

久野

いや、そこは逆ですね。「なんで、家族がいる人だけ手当が出るんですか?」とか「持ち家の人だけなぜ手当がつくんですか?」とか。

安田

じゃあ、手当みたいなものは、どんどんなくなっていくんですか?

久野

明確な意図がなければなくなっていくでしょうね。

安田

たとえば?

久野

たとえばZOZOは「幕張に住んでほしい」という意図で「幕張手当」をつけてますよね。

安田

ZOZOは特殊じゃないですか?

久野

家族を大事にしてほしいっていう意図で「家族手当だけは残したい」っていう社長さんもいらっしゃいます。

安田

なるほど。そういう意図があれば手当も有効であると。

久野

そうです。

安田

でも手当にも社会保険はかかると。

久野

かかります。課税もされます。

安田

じゃあ課税されないのは交通費ぐらいですか?

久野

交通費も課税されることがあります。

安田

え!課税されるんですか。じゃあ社会保険料も交通費によって上がるんですか。

久野

社会保険も全額算入されます。

安田

そうなんですか!じゃあ遠くから来てる人は、社会保険料も高くなる?

久野

高くなるんですよ。恐ろしいことに。

安田

なんと!それって、むちゃくちゃな話じゃないですか。

久野

そうじゃないと、逆にむちゃくちゃになっちゃうじゃないですか。

安田

逆に?どういうことですか。

久野

基本給を下げて交通費を10万円にするとか。

安田

なるほど。そういう悪いことができないようになってると。

久野

できないようになってる。

安田

昔は現金で渡しとけば「社会保険も税金も払わなくていい」みたいな感じでしたけど。

久野

いつの話ですか?僕が社労士になった頃には、すでにあり得ない話ですよ。

安田

そういうズルはもう許されないと。

久野

はい。例えば、会社が住宅借りてあげて、家賃だけ2万円引くパターンとかあるじゃないですか。

安田

ありますね。

久野

あれに対しても社会保険をかけてきますから。現物給与みたいな感じで。

安田

そこまで厳しいんですか!じゃあ、もう手当とかやめちゃって、基本給上げたほうが全然いいですね。

久野

絶対そのほうがいいと思います。

安田

顧問先にはそうアドバイスしてるんですか?

久野

アドバイスしますね。同一労働・同一賃金も始まりますから。

安田

そこにも手当が関係してくるんですか?

久野

はい。大きく関係します。

安田

いつ法律が変わるんでしたっけ?

久野

大企業が2020年で、中小企業は2021年から始まります。正社員とパートの格差を是正する法律なんですけど、手当の差が許されなくなります。

安田

社員だけに付けるのはダメだと。

久野

ダメです。正社員に皆勤手当が付いている場合、パートさんにも皆勤手当を付けてくださいという法律です。

安田

なるほど。手当は抜け道にならなくなると。

久野

手当が多いっていうのはデメリットでしかない。だから「今のうちに見直してください」とアドバイスしてます。

安田

交通費で差をつけるのもダメなんですか?

久野

もちろんダメですよ。正社員はあるのに、パートがないっていうのは問題になります。

安田

でも交通費にも社会保険料がかかるんですよね?

久野

かかります。

安田

そこが納得いかないですよね。遠くからきてる人は「たくさん社会保険料を払え」ってことでしょ?

久野

そういうことになりますね。

安田

ぜんぜん公平じゃないですよ。それでは。

久野

表面的には公平かどうかが問われてるんですけど、実はできるだけ多くのところから社会保険料を取りたいんですよ。

安田

なるほど。そういう意図でしたか。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

中小企業が抱える
三重苦(採れない、辞める、生産性が低い)を、
三重丸(採れる、辞めない、生産性が高い)へ。
6つのステップで支えます。

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