ルールに隠された意図を読め!
第36回「理念は2割のためにある?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第36回「理念は2割のためにある?」


安田

ビジョナリーカンパニーっていう本があったじゃないですか。

久野

はい。何年か前にベストセラーになった。

安田

大きくなった企業には「立派な理念やビジョンがあった」っていう。

久野

そうでしたね。

安田

個人的にはもう理念の時代終わったんじゃないかと思ってまして。

久野

また凄いことを言い出しましたね(笑)

安田

本当に心から願う理念ならいいんですけど。

久野

そうじゃない理念が多いですか?

安田

結局は「売上のため」っていうのが分かっちゃうじゃないですか。

久野

言っちゃいましたね(笑)

安田

「こんな理念で社員はやる気出るのかな」とか「会社を大きくしてお金儲けしたいだけだろ」みたいな理念が多い。

久野

立派な理念もありますよ。

安田

まあそうなんですけど。そもそも理念って社員に通用してるんですかね。久野さんはどう思います?

久野

正直にいうと、社員はもう「会社のため」とか「社長のため」には働かないですよね。

安田

そうですよね。

久野

自分のためにしか働かない。それが原理原則だと思ってます。

安田

でもそれって最近の話ですよね。私が社会人になった頃は「会社のために働く」っていうのが普通でしたよ。

久野

私の頃もそうでしたね。雇ってもらってる恩とか、プロとしての責任みたいなもがあったと思います。

安田

営業は「自分の給料の3倍稼げ」みたいな話をされて、普通に受け入れてました。

久野

ですね。自分の給料以外に事務の子の人件費とか、家賃とか、いろいろ言われて。

安田

冷静に考えたら「なんでそんなもの俺が稼がないといけないんだ」って感じですけど。当時は疑問にすら感じませんでした。

久野

雇っているほうとしては今でも思いますよ。

安田

それは雇ってる側の問題であって「自分には関係ないじゃん」みたいな。

久野

今はそれが普通の感覚でしょうね。

安田

採用したら「ファミリーの一員」みたいな感覚が、経営者にはあるじゃないですか。

久野

中小企業には多いですね。

安田

そういう部分も社員の感覚とズレて来てると思います。あと「会社を大きくするのはみんなのため」みたいな感覚も。

久野

残念ながらそうですね。この10年ぐらいで「会社が社員守れなくなった」っていうのも大きいと思うんですけど。

安田

もはや終身雇用なんて無理でしょ。ずっといたとしても給料は上がらないし、役職定年とかでいきなり給料が激減したり。

久野

そうですね。

安田

まともな人なら「自分のことは自分でやらなきゃ」ってなりますよ。

久野

そうなるでしょうね。

安田

経営者からしたら「稼いだ利益以上に給料払えるわけないじゃん」っていうのが当たり前の感覚。でも働いてる方は「給料以上に働くわけないじゃん」っていうのが当たり前。

久野

そこに決定的なズレがありますよね。

安田

うちの会社は「もらってる給料の5倍稼ぐのがルールだ」とか言われても「へ?」って感じだと思いますよ。

久野

私も両方やった経験があるので分かりますけど。そこのギャップは大きいですよ。

安田

でも久野さんって、サラリーマン時代も結構ハードに働いてたんでしょ?

久野

当時はそれが楽しくてやってただけですね。あんまりお金にこだわってなくて。スポーツみたいな感覚でやってました。

安田

昔はあんまり損得とかって考えなかったですよね。

久野

考えなかったですね。

安田

今はたぶん、損得を考えないと生きていけないようになってるんですよ。

久野

終身雇用のときって原則守られてたじゃないですか。「この会社の中でしっかり頑張れば幸せな未来がある」って信じてた。

安田

でも終身雇用の時代だって窓際族とかありましたよ。子会社への出向もあったし、やりたくない仕事をやってる人もたくさんいた。

久野

それでも守られてる感覚はあったんじゃないですか。

安田

今だって法的には解雇できないんだから、終身雇用みたいなもんじゃないですか。本人が辞めるって言わない限りはクビにはできないし。

久野

まあそうですね。

安田

なのに前ほど守られてる感がない。不安や不満も大きいし。

久野

隣が見えちゃうからじゃないですか。スマホで調べたらすぐ分かるじゃないですか。

安田

どこも似たようなものだと思いますけど。

久野

より待遇がいい会社と比べちゃうんですよ。大手企業とか。

安田

そんなところと比較してもしょうがない気がしますけど。

久野

あとは社会全体の余裕がなくなってきてる。実際、若者の給料は増えてないですし。

安田

でも昔に比べると何でも各段に安いですよ。ハンバーガーも牛丼もデニムパンツも激安になりましたから。

久野

みんなスマホ持ってますしね。

安田

そうですよ。おいしい食べ物は山ほどあるし、スマホという超便利なツールもあるし。生活はぜんぜんプアーになってないと思うんですけど。

久野

仕事もたくさんあるので「いつでも辞めれる」という前提で働いてます。だからロイヤリティも生まれない。

安田

割り切ってるってことですよね。でもそれって悪いことばかりじゃないですよ。

久野

もちろん悪いわけじゃないですよ。

安田

給料をもらってる仕事に関しては「ちゃんとやろう」という責任感もある。

久野

ありますね。そこは結構まじめです。

安田

変に理念とかビジョンとかを掲げるより、お互いに割り切って契約で成り立つ仕組みでいいんじゃないですか。

久野

う〜ん。ただやっぱり2割ぐらいは「この会社が好きだ」って人がいないといけないと思うんですよね。残り8割は正直なところ契約的な関係でいいと思いますけど。

安田

じゃあ、理念は2割の人のためにあるってことですか。

久野

理念というか選ぶ理由ですね。この会社が好きかとか、一緒に働いている人が好きとか。

安田

それってもはや理念ではないですよね。

久野

そういうのも含めて理念なんじゃないですか。

安田

でも会社って結局は「収益を最大化してくれる人」を採るじゃないですか。

久野

そうですね。

安田

「誰とやりたいか」とか言ったって、好きな人より稼いでくる人を採るんですよ。

久野

そこはビジネスですから。好きなだけでは採れないです。

安田

つまりは損得じゃないですか。だったら、そういうふうに言っちゃったほうが気持ちいいと思うんですけど。

久野

でも「うちの理念は金儲けです」って言えないでしょ(笑)

安田

そこまで言わなくてもいいので、もうちょっと正直っぽいビジョンとか。

久野

たとえば?

安田

もう目標に近いようなのでもいいと思うんですけど。たとえば「社員の平均年収600万にするから、社長も3000万取らせて」とか。

久野

かなりぶっちゃけてますね(笑)。でもそういう時代なのかもしれません。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

中小企業が抱える
三重苦(採れない、辞める、生産性が低い)を、
三重丸(採れる、辞めない、生産性が高い)へ。
6つのステップで支えます。

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