泉一也の『日本人の取扱説明書』第37回「炭火の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第37回「炭火の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

じぃと眺めてしまう、妙な魅力が炭火にある。眺めているうちに体も心も温まる。この炭は日本特有の文化だ。日本の生活の中心にあった囲炉裏や火鉢には炭があり、西洋の生活の中心にあった暖炉には薪があった。日本が炭の文化であることは、炭火を使った和食、炭を使った書道に水墨画を見れば一目瞭然である。

炭は静かにじんわり燃え、遠赤外線を出す。薪はメラメラと炎を出して直接的に熱を伝える。ここに日本と西洋の燃え方の違いが見えてくる。相撲では立ち合いまでに、静かに仕切りを重ね相手と呼吸を合わせる。取組に勝利したときは、懸賞袋をすっと手にして、そそと土俵を後にする。一方レスリングでは「気合だ!気合だ!気合だ!」と叫びながら試合に臨み、勝利したときはコーチを肩車までして喜びを表現する。

イメージしてみよう。静かに赤らんだ炭にじっくり焼かれた魚、肉汁があふれ出てきた焼き鳥に焼肉、香ばしさに包まれたおこげの付いた焼きおにぎり。ヨダレが出てくるはずだ。ガスの火で焼いたものとは一味も二味も違う旨さがある。ガスの火は素早くつけつることができ、火加減もやりやすく、煙やニオイも少ない。一方、炭火は火をつけるのに手間がかかり、火の調整がしにくい。炭がもともと持つニオイや肉汁が炭に落ちた時に出る煙のニオイが服にまでついてしまう。

ガスの火は明るく便利で清潔。炭火は暗く不便で臭い。文明開化のシンボルはガス灯であったが、それまで使っていた行灯のように暗くて不便なものは姿を消した。同じく炭火も日本人の生活から消え、ガスの火が中心になっていく。不便だからといって、炭火を失ってよかったのだろうか。静かに燃える炭火の熱は、日本人の心の奥にじんわりと届き、温めてきたのではないのか。

ブルー・オーシャン戦略は、未知の新大陸を探しだす作業ではありません。
新たなブルー・オーシャンは今いるレッド・オーシャンの中に無数に存在するのです。

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