第174回「日本劣等改造論(6)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― “コミュニティ”という免疫(後編)―

江戸時代の日本。「藩」が藩札というお金を発行するぐらい地方分権が進んでおり、藩の中では階級をベースにしたヒエラルキーではなくコミュニティが発達していた。それを学校では封建主義として学んだかもしれない。ここではヒエラルキーとコミュニティについて説明をいれながら、劣等ウイルスへの免疫を探していこう。

ヒエラルキーとはピラミッド型の階級的な組織構造を表すドイツ語である。ピラミッド階層の上にいくほど、意思決定の権限が大きくなる。下層は上層が意思決定した命令に服従することで、組織の統制がとれる。教会組織や軍隊組織がイメージしやすいだろう。上層に権限が集まるのでトップダウンのイメージがある。

コミュニティは日本語で「共同体」という。運命共同体という言葉があるように、同じ目線で助け合い協力して生活する人の集まりである。共助と共創の関係の集合体といってもいいだろう。

コミュニティは暮らしから自然発生しており、暗黙の了解の元、全体が調和している。コミュニティはヒエラルキーのように階級を定義する権限、昇格降格の基準、評価・罰則基準といったルールがなく、曖昧である。曖昧なので、その場その場で互いに了解しあいながら全体で調和する(これを169170回では「世間」といった)。身近な例でいうと、コープという生活協同組合があるが、これはコミュニティ的組織であり、イオン・セブンイレブンはヒエラルキー的組織である。

イオンとセブンイレブンが日本中を席巻しているように、小売ではヒエラルキー的な存在が圧倒している。ヒエラルキーは規模を大きくする時に(スケールという)機能する。日本が大日本帝国という世界覇権に向けてスケールさせるには、中央集権型のヒエラルキー型に変えなければならなかった。そのため藩を廃して中央に服従する県にする必要があった。廃藩置県の目的はそこにあった。

さらにスケールさせるためにはヒエラルキー型を強固にする階級制度、軍隊、教育を導入した。富国強兵政策である。国民を義務教育の中でヒエラルキーに適した人材へと育て、基準を作って評価し、優秀な人材を見つけ出しては中央に登用してエリートを作り出した。江戸から明治にかけて、日本はスケールさせるためにヒエラルキー社会に変換したのである。

ヒエラルキーには優劣がある。優劣は「劣等」を生む。ごく限られたエリート以外は劣等感を持つ。そして西欧への劣等ばかりでなく、日本人同士でも優劣がついて「劣等ウイルス」が入り込んだ。西洋では教会をはじめヒエラルキーが日常にあったこともあり「劣等」が病までにならず、原動力として市民革命を起こし、自分たちで「民主」という新しいヒエラルキーを生み出した。「世界を民主化しよう!」という押し付けるぐらいのエネルギーを欧米に感じるのはこの経験からだ。

こうした日本のヒエラルキー化によって、根深く入り込んだ「劣等ウイルス」には、コミュニティという免疫療法が効く。西洋が民主型ヒエラルキーを自分たちの手で作り出したように、日本型コミュニティを作ればいいのだ。それは藩があった地方にあり、ローカルにあり、現場にあり、暮らしにある。そこから生活を作り直す。おそらくコープもそうした生活を作り直そうとした人たちから生まれたのだろう。コープは雑貨、食品、共済といった「生活商品の流通」にとどまっているが、政治・行政・教育・エネルギー・医療・お金といった領域まで広げてコミュニティ化していけばいい。

ローカルな暮らしから人と人の関係を通して自然発生的に生まれるものがコミュニティである限り、我々ができることは一人一人がコミュニティ的な行動を起こして輪を広げていくことだろう。Facebook、InstagramといったSNS、ジモティやメルカリといった価値交換のアプリ、クラウドファンディングはコミュニティを作る先駆けであり、これからも続々と現れ、使い方も多様化していくだろう。

こうしたITは距離を超えてコミュニティを生みだすツールであり、ここに新しい社会(世間)が生まれる。自然発生的に生まれる人と人の関係とは、同じ目線からの対話を通してである。江戸時代の日本人は地縁と血縁に縛られていたが、令和の日本人は、地縁・血縁の縛りがほとんどなく、階級もなく、フリーに距離を超えた対話を通して、コミュニティを作れてしまう環境にある。素晴らしい環境が用意されているのだ。

ここで「対話」がコミュニティ作りの鍵になるが、長くなったので次号にゆだねることにしよう。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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