とはいえ、人間とは合理性だけで動けるロボットでもない。理念や理想を掲げて、それが理にかなっていればがんばれるはずだろなんて、そんなのは多くの人間にとって絵空事です。しんどいキレイゴトです。仕事さぼってビールを飲んでだらだらしたい日も、けっこうある。それが、まともな人間です。つまり、人間には【完全合理性】などなく、やはり❸【限定合理性】の生き物なのです。「そんな高邁な理念とか目標とか、道理はわかるけどさあ、遠すぎるんだよね。高いところにある大目標じゃなくて、もっと届きやすい限定的な小目的がいいなあ」が、人間です。
合理性の追求は、曖昧や無秩序を、分割し整理することでもあります。ですから、あまりに遠大な理念や目標ばかりを社員に語りかけるのではなく、手が届きやすく息切れしない小さな目標へと、いわば「小分け」に分割限定し、働く道理も限定的に見えやすくすることが大事です。
「めざす方向はわかったでしょ?で、あしたからの仕事だけど、まずはこんな心がまえで、ここから始めればいいんじゃないかな。」「半年かけて、ここまで届いたら、たいしたもんだよね。」「数字目標?それもすごく大事だけど、まずは新しい目標にむけて働くスタンスや仲間との動き方が変化することがいちばん大事だよ。着実に一歩一歩やってみよう」と、❸【限定合理性】のなかで、限定目的性をつくるのです。
受験だっておなじですよね。難関大学に受かるぞ、と理想を掲げつつも、学習指導する側が日々やるべきことは、「きょうはこの10問を解いてみよう!」と小目的に向かいコツコツ楽しく指導することです。「目標の小分け」をすれば、ハードルが下がって、人の達成可能性は高まります。で、できたら、「お、なかなかやるね」とホメる。「きみなら、一日15問できるんじゃないの」とノセる。管理型ではなく育成型のマネジメントを実践する。すると本人に、「私はやれる人間だ」というポジティブな感情が生まれます。これを『自己効力感』と呼び、内発性発揮の核になります。
私はやれる、という『自己効力感』を持って、内発的に楽しく取り組む社員がたくさんいる組織は、すばらしい。経営理念の方向性~事業ビジョンと戦略~自分の役割のなかで、「チームのやり方だけど、こう変えたほうがいいんじゃない?」「私個人はこれをやりたいなあ」と、 “やりたい考えと気持ち”を投げあい、カラミあい始めるからです。
経営理念や事業ビジョンの実現にひもづく、「やりたい気持ち」を軸に社員が考えを投げあうことは、単なる社内交流でない。これこそが、重要な経営戦略だと考えます。どれだけ立派なマーケティング戦略を描いても、こいつがなければなにも始まらない。経営理念や事業ビジョンなどを体系立てる価値と意味は、ここにあります。「経営理念」をつくっても、それが「元気な組織運動」を生まなければ意味がない。経営理念づくりへの投資とは、「元気な組織運動」への投資に他ならないのです。
(次回につづく)