【コラムvol.50】
ブランディングしない。

「ハッテンボールを、投げる。」vol.50  執筆/伊藤英紀


「ブランディングとは何でしょうね」そんなそもそもの質問を、経営者から投げられることがあります。

ブランディング関連本を読む、勉強熱心でまじめな経営者ほど、難しく考えてしまうようです。

そういう経営者には、「ブランディングという考えを、忘れませんか」とお話しします。

「ブランディングとは、商品開発だ。」

そう理解して、商品開発の一環として埋め込んでしまった方がわかりやすいし、ビジネスにとってプラスだと思うのです。

物体として『完成された商品』も、仕組みとして『完成されたサービス』も、じつはまだ『未完成』です。

料理と同じです。

食材をきちんと選び、手間をかけ工夫した手料理。鍋の中で「物質的に完成したから」といって、そのままゲストに出す人はいない。

飢えている時代じゃあるまいし、コンロの上の鍋に飛びつく人はいない。

まだ『未完成の料理』だからです。

●料理が最もおいしそうに見える器を選ぶ。盛り付けに気を配る。彩を添える。ゲストの前に見映えよく配膳する。

●食材について、調理の一手間について、ほどこした隠し味について、さりげなく説明する。食べる人の期待感が高まる。

ここまでやってようやく、『料理の完成』です。

これと同じで、物体や仕組みとして完成された商品とは、まだ『鍋の中の未完成な料理』。

モノに飢えている時代じゃあるまいし、物体に飛びつく人はいない。

見映えを演出し、なぜうまいのか、なぜ買うといいのか、という理由も添える。そこまで開発してようやく、『商品開発』です。

商品を買いたくなる動機や理由も、PRコンテンツ開発としてしっかりまとめ、webサイトやパンフレットなどに落とし込むのです。

「ブランディングという新しい概念が加わった。どうしよう」と、ややこしく考えるより、「商品開発の範囲が、従来よりも広がった。がんばろう」と考えた方が、わかりやすい。

これまでずっと、商品開発にはすごく力を注いできましたよね。

でもじつは、なんと未完成の商品で自己満足して、市場に出してしまっていたんですよ。

商品開発が手抜きだったんですよ。いや、そんな怒らないでください。

見映えの演出と、なぜうまいのか、なぜ買うといいのか、という理由づくり。これがおざなりだったとすれば、残念ながら、商品開発がおざなりだったということ。

現代の消費者にとっては、そこまで含めて『商品』なのですから、仕方ありません。

手抜きと言われて腹が立つかもしれませんが、それが今という時代の現実なのだから、認めないと痛い目を見てしまう。

商品開発の一環だと捉えた方が、『ブランディングのおまけ感』、つまり「余裕があったらやるんだけどね、ないからそこそこでいいかなあ」というハンパな気分も変わる。

買う動機や理由づくりに苦戦する場合、「なんてあいまいな商品なんだ」「これじゃダメだ」「商品の利点を開発し直そう」と自己批判できる。

商品開発に一層細かくこだわって注力できるわけですから、さらにいいと思います。

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