【コラムvol.23】
社歴をまとめよう。
単なる歩みじゃなく、
思考と判断の道筋を。

「ハッテンボールを、投げる。」vol.23  執筆/伊藤英紀


社歴をまとめよう。
単なる歩みじゃなく、
思考と判断の道筋を。

会社の歴史をまとめることは、重要だ。
出来事、という事実を、
時系列で漫然とならべようと
言っているのではない。

物語のない沿革は、退屈である。

会社には必ず、起点や曲がり角がある。
そこでは、なにがしか感情のうねりがあり、
これからどうするべきかを迷い思考し、
なんらかの価値観を判断軸にして、
なすべきことを決定してきたはずだ。

この感情~思考~価値判断の道筋を、
人間の物語としてまとめること。
それが、とても重要だと思うのです。

社歴をまとめる意味は、
まず、経営者自身が、
その当時直面していた状況に
どんな感情をもち、
次に進むためにどう思考し、
いかなる価値観のもとに、なにを判断したのか。
その思考と価値判断の軌跡を
もういちど整理整頓し、自分を知ることである。

自分の思考経路と価値判断の軸を知ることが、
自分を知ることだと思う。

過去の決断は、
これからも守りたいまともな思考と
正しい価値観にもとづく
判断だったかもしれない。

もしかしたら浅はかで、反省すべき
価値判断だったかもしれない。

どちらでもいい。

思考と価値判断がたどった道筋を、
あいまいにせず、
はっきり自覚することが重要なのだ。

経営に限らず、生きることは、判断の連続だ。
昨日をあいまいに理解している人は、
今日も明日も、あいまいな価値観で
あいまいな判断を下すことになる。

それでは生きているかいも、半分だ。

なぜなら、思考と価値観があいまいでは
自分よりもっと高いレベルの思考や
価値判断の道筋に気づくことはできないからだ。
つまり、学ぶ機会を失ってしまうからだ。

あいまいでは、にぶく生きるしかない。
にぶい経営では、よい会社は育たない。

社歴をまとめることのもう一つの意味は、
社員や求職者と物語を共有できることである。

物語に共感してくれることは、うれしいことだ。
いい会社だな、とシンパシーを抱けば、
この会社でがんばりたい、働きたいという
気持ちが生まれるからだ。

しかし、もっと大事なことがある。
物語に「わかるなあ」と共感して欲しいが、
なにも経営者と同化しなくてもいい。

「私なら、たぶん少し違う感情を抱き、
価値観はとてもわかるけど、
ちょっと違う判断をするかもしれない。」
そんな差異を感じても、ぜんぜんいい。

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