第49回「順番を間違えたらもう終わり」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第49回「順番を間違えたらもう終わり」

安田

この前ブログに書いてましたよね?社員はもう「会社のため、社長のため」には働かないって。

久野

そう思いますよ。

安田

社員は自分のために働いてるんだと。

久野

その通り。

安田

それを社長は「自覚したほうがいい」ってことですね。

久野

そう思ってないと、もう経営できないです。

安田

「会社のために社員が働くのは当然だろ」って経営者は、まだまだ多い気がしますけど。

久野

多いですね。経営者の相談に乗ってると「あいつが裏切った」「他社に転職しやがった」って言いますから。

安田

かなり上から目線ですね。

久野

よくよく自分のことも振り返って考えないと。「自社のほうが幸せだ」って言えるかどうか。

安田

そういう視点じゃないと、どんどん人が離れていきますよ。

久野

社長はどうしても驕りが出てきちゃうんですよ。

安田

驕りですか。

久野

俺が「あいつの人生を面倒見てやってんだ」って。

安田

なるほど。「食わしてやってる」という考えですね。

久野

ひと昔前の仕事がない頃なら、それもあったと思うんですよ。でも今はどこでも働けるので。

安田

ほんと、どこでも行けますもんね。

久野

社員は「自分の幸せを求めて働いてる」ってことを、もっと意識したほうがいいです。

安田

驕りもあるんでしょうけど。私が感じるのは「目的の共有化」がなされてないこと。

久野

ビジョン共有ってことですか?

安田

ビジョン以前の問題ですね。たとえば社員数が2倍になって利益が2倍になっても、社員はまったく嬉しくない。

久野

自分の給料は増えませんから。

安田

そうなんですよ。にも関わらず「会社が大きくなっていくのは社員も嬉しいはずだ」って思い込んでる経営者が多い。

久野

それは感じます。

安田

昔は確かにそうでした。利害も一致してたので。

久野

今は、それで喜ぶ社員はものすごく少ないです。俺に関係あるの?みたいな。

安田

ですよね。

久野

やっぱり夢が減ってきてるんですよ。会社が大きくなって売り上げが伸びても、自分の給料やボーナスが増えるわけじゃないので。

安田

それに伴って給料も増えないと、嬉しいはずがない。

久野

昔は業績が良くなると「暗黙の了解」で報酬も増えたんですけど。

安田

今は売上や利益が増えても、給料は変わらなかったりするので。経営者は嬉しいでしょうけど社員はぜんぜん嬉しくない。

久野

中国なんてその点すごく分かりやすい。めちゃくちゃ理不尽なことも多いですけど納得してる。

安田

明確な見返りがあるってことですか?

久野

たとえば深センって街ひとつ取っても、いろんな矛盾を抱えてるんです。でも人々の生活は1年前と比べてどんどん良くなってる。

安田

日本にいるとそういう実感がないですもんね。

久野

はい。日本はその逆。

安田

一生懸命やってもぜんぜん良くならない感じ。

久野

だから覚めちゃったんだと思います。夢を見させる力がもうなくなってる。

安田

目標を掲げる前に「一人一人の生活をどう良くするか」って考えないと、国民も社員もついてこない。

久野

「仕事を与えてやる」みたいなのじゃ、もう絶対無理です。

安田

会社が大きくなったら「社員の給料も増やすよ」と。

久野

そこを明確に言ってあげないと。ひと昔前は「会社が伸びたら当然給料も増える」という常識だったじゃないですか。

安田

今はそんなこと社員が信じてないですから。

久野

実際に会社が伸びても、増やす気のない経営者がたくさんいますし。

安田

先が見えないので固定給を増やしたくないんですよ。気持ちは分かります。

久野

私も経営者なのでよく分かります。でもそれしかないんですよ。

安田

人を雇うなら報酬を増やし続けるしかないと。

久野

少なくとも今のままでは絶対成り立たない。それを覚悟したほうがいいです。

安田

「みんなの給料をこれだけ増やしたいから、会社を大きくしようね」っていう順番ですね。

久野

そうだと思います。だから中の人も増やせないよと。「そんなことしたらまた給料減っちゃうから」っていうロジックをちゃんと説明しなきゃいけない。

安田

社員さんって、人が増えても「すぐに仕事出来ないし、誰が育てんの」って、結構シビアに見てますよ。

久野

シビアですよね。「そいつの給料誰が稼ぐの」って。

安田

ですよね。単に売上を伸ばすために人を増やすのは、もはや社長のエゴでしかない。

久野

それがもう無理な時代が来ちゃった。

安田

無理やりやっちゃうと、できる社員ほどバカバカしくなって辞めちゃう。

久野

そうですね。さめてますから。

安田

できる人が辞めちゃうと「会社は苦しくなって、人を採らないといけなくって、またさらに苦しくなる」という悪循環。

久野

一旦その悪循環に入ったららもう元に戻れません。

安田

今頑張ってくれてる社員に「まず還元する」ことが大事だと。

久野

その順番しかないです。

安田

還元したいけど「このままじゃ出来ない」という場合はどうしたらいいですか?

久野

赤字の社員がいても解雇できないですからね、日本は。

安田

そうなんですよ。赤字でも最低賃金は払わなくちゃいけない。だから頑張ってる人に払いたくても払えない。

久野

確率的に「できない人が絶対発生してしまう」という感覚を、もっておくことが大事です。

安田

黒字の社員だけには出来ないと。

久野

はい。組織を作る以上、絶対に2:6:2の法則になっていきます。

安田

いやいや。とんとんの社員は6割もいませんよ。大手はもう1:9だと言われてます。

久野

中小企業はそれだともたないです。なんとか黒字の社員を増やさないと。

安田

じゃあ、まずは赤字社員に頼み込んでお金を積んで辞めてもらうと。

久野

いやマイナスにはフォーカスしないことが大事。

安田

じゃあ赤字社員はどうするんですか?

久野

もうほっとく。

安田

ほっといても給料は払わないといけないですけど。

久野

でも入れ替えたところでまた同じなんですよ。

安田

赤字社員が増えるだけだと。

久野

はい。

安田

じゃあ駄目な社員は眼中に入れず、戦力になる社員だけを巻き込んで、収益が増えたらどんどん還元していくと。

久野

2割の黒字社員をもっと大事にしていく。「今の給料のままだ」って思われたらどんどん抜けていくので。そうなったらもう取り返しがつかない。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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