第73回「やめられないのは誰?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第73回「やめられないのは誰?


安田

アフターコロナではハンコがなくなるとも言われてます。

久野

もう要らないんじゃないですか。

安田

私なんて住民税を払うためだけに、ハンコついた書類を銀行に持って行ってます。

久野

これを機にいろんなものがなくなると思う。

安田

ハンコだけじゃなく?

久野

日本人って商習慣として「こんなの意味あるのか」ってことを惰性で続けてる。

安田

たとえば?

久野

一等地の立派なオフィスはなくなると思う。

安田

「いらないんじゃないか」って言われてますよね。そしたら通勤もなくなるかも。

久野

すぐにはなくならないでしょうけど。

安田

通勤が好きな人もいますし。

久野

ニュースに出てました。在宅に疲れてオフィスに行きたいという話。やっぱリアルで集まる場所もいると思いますよ。

安田

さすがにゼロは厳しいですよね。でも今までが10だとしたら、2ぐらいで十分じゃないかと思う。

久野

そうですね。でかいオフィスはもういらない。全員集まるならでかいホール借りて、来たいやつだけ来るみたいな。

安田

そうなったら困る会社も出てくるでしょうね。たとえばハンコがなくなったらハンコ屋は困るでしょうし。

久野

なくなりはしないですよ。宗教がらみもあるし。

安田

マーケットは残りますか。

久野

利権もあるでしょうから。なくなりはしないと思う。

安田

利権といえば選挙ですよ。投票場所はどう考えても3密4密だし、投票率も低いしし。どう考えてもオンラインにしたほうがいい。

久野

かなり難しいと思います。だってマイナンバーひとつやれないんですよ。安田さん持ってますか?マイナンバーカード。

安田

もちろん持ってます。

久野

安田さん、早いですね。

安田

早いですか?かなり前ですよ。逆に持ってない人なんているんですか。

久野

ほとんど持ってないです。うちの事務所でも半分ぐらい。

安田

そんなに少ないんですか?

久野

はい。カードにする利便性がないって、みんな言います。

安田

利便性はありそうですけどね。コンビニで印鑑証明も取れるし。

久野

10万円の給付でも役に立たないし。

安田

確かに。郵送の方が早いですもんね。

久野

そうなんですよ。

安田

カードを持ってる人から先に10万円支給すればいいのに。

久野

本当そうですよ。

安田

なぜそうしないんですか?

久野

ものすごく抵抗が大きいから。

安田

今だに「現金じゃないとダメ」って人も多いですもんね。日本人はそういうところにムダに執着する。

久野

そうですね。

安田

ハンコも、アナログな選挙も、現金至上主義も、根っこは同じですね。

久野

社労士業界も結構ひどくて。電子申請っていうのがあるんですけど。

安田

電子申請?

久野

めちゃくちゃ便利なんですよ。でもそれすら使ってない社労士事務所がある。業界全体でもデジタル化していこうなんて思ってない。

安田

思ってないですか。

久野

やっていかなきゃいけない業界なのに全然できてない。税理士事務所も似たとこありまして。

安田

どうして進まないんですか?

久野

「声はかけたけど誰もやらない」みたいな。管理職も動かないし。

安田

ここまで危機的な状況になると、さすがにやらざるを得ないと思うんですけど。

久野

言うと怒られそうだけど、社労士会の助成金相談も現場でやってますもん。

安田

そうなんですか。

久野

助成金や給付金は「マイナンバーに切り替えなきゃ渡さない」とか、それぐらいやらないと変わらない。

安田

登録されるのが嫌なんですかね。

久野

単に今までのやり方に固執してるだけだと思う。

安田

いい悪いではなく変えるのが嫌だと。

久野

けっこう進んだ企業でも、総務の方に「契約書はメールでいいですか」って聞くと、「今回は紙で」って言われる。

安田

久野さんの顧問先はどうですか?請求書のメール化とか。

久野

5パーセントぐらいじゃないですか。

安田

ほとんど紙ですか?

久野

うちが送る場合は100%メールですけど。来るのはほとんど紙の請求書ですね。上場企業も紙できますからね。

安田

切り替えるデメリットってあるんですか?

久野

何もないと思う。むしろコストが下がる。

安田

ということはやっぱり惰性。

久野

そうですね。郵便だけでも結構な金額ですから。封筒に入れてラベルシート貼るのも手間だし。安田さんだってついこの前まで紙で送って来てたじゃないですか。

安田

紙の請求書じゃないと久野さんが受け取ってくれないと思ってました。

久野

逆ですね。こちらから「メールにしてくれ」とは言えないので。

安田

じゃあお互い忖度してたってことですね。

久野

そういうことになります。私は安田さんが紙にこだわってると思ってました。

安田

そんなわけないじゃないですか(笑)

久野

でもそう思いますよ。普通は。

安田

似たようなことが日本中で起こってるんでしょうね。

久野

そうかもしれません。

安田

お互いに相手が言い出してくれるのを待ってるとか。

久野

日本人らしいですね。

安田

そういうことが山ほどあるかも。

久野

あると思います。

安田

みんなで一斉に変えるしかないですね。

久野

どうやって?

安田

紙の請求書をなくす日を国会で決めちゃうとか。

久野

法律で?

安田

休みすら自分では決められない国民なので。

久野

確かに。やたら祝日が多いですもんね。

安田

休めって言われないと休まない。やめろって言われないとやめられない。

久野

その国民性が最大の問題なんでしょうね。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから