さよなら採用ビジネス 第106回「飲食の境目はどこにある」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第105回『斜陽産業の末路』

 第106回「飲食の境目はどこにある」 


安田

石塚さんの大好きな美々卯が閉店するそうですね。

石塚

残念のひとことです。

安田

石塚さんのことだから、もっと厳しいコメントがあると思ったんですけど。

石塚

美々卯の良さは個室がちゃんとつくってあって、おいしいうどんを食べながら大事な人とビジネスでランチができること。

安田

へえ。そんなに美味しいんですか?

石塚

美々卯に誘うと結構みんな喜んでくれました。

安田

単なるうどんチェーンかと思ってました。

石塚

美々卯の新宿店はたぶん100回以上使ってます。

安田

ものすごいヘビーユーザーですね(笑)

石塚

あそこのダシ好きなんですよ。

安田

でも美々卯って「うどん」と「しゃぶしゃぶ」ぐらいしかないですよね。

石塚

おしゃれな鍋うどんが関西の上品なダシで食べられて。しかもコースで出してくれるランチはちょうどいいバランスなんですよ。

安田

いくらぐらいするんですか?そのランチって。

石塚

結構高くて、ひとり2,000円ぐらいしたはずです。

安田

そのぐらいの価値はあると。

石塚

そうです。高級感あるし、お店のサービスはしっかりしてるし。和室もテーブルの個室もあるので、よく使いました。秘密の話をするときに。

安田

密談が目的だったんですね(笑)

石塚

単価も高いから目上の人とのビジネス利用にも良くて。でも昼間はマダム系が多いんですよ。

安田

仲居さんみたいな人が運んできてくれるんですか。

石塚

そうです。仕事としての使い勝手がすごくいい。プライベートで行ったことは1回もないですけど。

安田

「このうどんがどうしても食べたいから行く」という店ではない?

石塚

プライベートではそこまで「行きたい」とは思わなかったけど、おいしかったですよ。

安田

へぇ~。

石塚

たぶん、安田さんが食べてもNGは出さないと思います。味としては。

安田

私もだいぶ前に行ったことがあります。確かに美味しいですけど、職人の味っていうよりは「定番品のおいしいうどん」という感じ。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

「そこに行かないと食べられない」というほどの味でもないような。

石塚

安田さんは関西人だから、うどんとかダシに厳しいんじゃないですか。

安田

どうなんでしょう。でも美々卯に限らず、今回のコロナでは飲食店が相当つぶれていくでしょうね。

石塚

飲食店は「回転が命」なので、止められちゃうと厳しいんですよ。

安田

日銭が入ることによって回してるビジネスですからね。

石塚

そこが強さでもあるんですけど。

安田

さすがに2か月も止められちゃうと、どうしようもないです。自分の土地でやってる人は別かもしれないですけど。

石塚

ほんと可哀想だと思います。

安田

前回のレナウンと違って「コロナがなかったら、つぶれてなかっただろう」ってケースもあるでしょうね。

石塚

美々卯さんなんかはその典型ですよ。

安田

コロナがなければまだまだ頑張れたと。

石塚

美々卯って出店場所がみんな家賃の高いところなんですよ。やっぱり高級感がある業態なので、おのずと家賃が高くなる。で、家賃高い割にはうどんなので、それなりに回転させないともたないんです。

安田

なるほど。

石塚

だからお客が来なくなったら、ああいう業態は一発でアウト。まあ、うどんにしちゃ高いですけど、客単価2万3万はとてもとても鍋うどんでは取れないので。

安田

そりゃそうですよね。

石塚

その割には家賃が高い。だから2か月も止まったら、もう無理。僕だったら1か月で閉める決断をすると思う。

安田

逆にコロナがなければ、つぶれてなかった可能性もあるってことですね。

石塚

ガラガラな状態を見たことないですから。

安田

へぇ~。

石塚

駅に近くて、そこそこ美味しくて、客層もいいから雰囲気もいいし。そのいい循環が「まさかこれで止まるなんて……」って感じ。たぶん経営者も予想してなかったと思う。

安田

緊急事態宣言を「早く解除しろ」って、ずっと石塚さんは言ってましたよね。

石塚

はい。1日延ばすごとに倒産する会社が増えていくので。

安田

いちばん聞きたいのは「コロナでとどめを刺されたけど、じつは元から終わってた」という会社と、「コロナがなかったら十分やっていけた」という会社の割合。

石塚

それは業種によりますね。

安田

外食だったらどうですか?

石塚

外食は「食らっちゃったところ」が多いんじゃないでしょうか。

安田

コロナがなければやっていけたと。

石塚

やっぱり飲食業って競争が厳しいので。もともと「まずいお店」ってつぶれるべくしてつぶれる。美々卯は勝ち組の典型だっと思う。

安田

コロナ前は業績も良かったんですか。

石塚

堅調だったと思います。とにかく見ててかわいそうなのが「お客を入れるな」っていう圧力。来店人数を下げられるとそもそも収益モデルが合わない。

安田

たとえば銀座の高級クラブは世論が分かれてまして。「そんな高い金取るところを税金で救う必要はない!」みたいな人もいるわけです。

石塚

日本独特の文化ですけどね。高級クラブはコロナの前から厳しい業界です。

安田

確かに高級クラブって減ってきてますけど。「コロナがなかったら十分やっていけた」という店もあると思いますか?

石塚

あるでしょうね。ただ結局「3密」って言われたら成り立たない業種なんで。

安田

そうですよね。フェイスシールドとかされてもって感じですし。

石塚

個人的にはちょっとかわいそうだなと思います。

安田

今回潰れる銀座の飲食店の中で、何割ぐらいが自己責任で、何割ぐらいがコロナの責任だと思います?

石塚

銀座は日本一家賃が高い街なので。地方の名店が出店してもだいたいは1年でつぶれる。だから銀座で残ってるお店は強い店なんです。

安田

なるほど。もともと強い店しか残れない環境だと。

石塚

はい。銀座で数年続いてて、お客さんも付いてるお店っていうのは、成功者ってことです。そこがつぶれたってことは、コロナが理由でしかないと思う。

安田

じゃあ、ある意味「コロナ対策」の被害者ってことですね。

石塚

そうです。外食・飲食業って政治家の票にならないから。

安田

そうなんですか。

石塚

ならない。たとえば鉄鋼、自動車、紙、繊維、化学、ぜんぶ組合があって、その利権代表として政治家を選ぶんですよ。

安田

外食にはそれがないってことですか?

石塚

外食業界って売上は年間25兆ぐらいあって大きいんですけど。日本マクドナルドでもせいぜい4,000億円規模。つまり「その他大勢」で成り立ってる業界なんです。

安田

関わってる人数が多いなら票になりそうですけど。

石塚

多いけど、それを取りまとめる団体がない。

安田

取りまとめないと票にはならないってことですか?

石塚

おっしゃるとおり。外食業界にはそれがないんですよ。だから永田町も票にならないところは応援しない。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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