GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)の社員は「愛社精神は無価値だ」と思ってる人が多いそうですよ。
そうなんですか。
はい。久野さんは「ビジョンや愛社精神が必要だ」っておっしゃいますけど。これから先も愛社精神は必要なんでしょうか。
中小企業には必要だと思ってます。たとえばGAFAはミッション型の仕事形態になってて「こういう世界をつくりたい」という方向性が明確じゃないですか。
はい。そういうイメージです。
そういうものがあれば、愛社精神がなくてもやっていけると思います。
そもそも愛社精神を求めるのって日本独特の文化ですよね。
そうですね。日本独特です。
それなのに「勤務先への満足度」では日本は世界最低レベル。
そういうデータがありますね。
自分がやってる仕事や、働いてる会社に満足していない人が80%を超えてる。だけど辞めない。
辞めないですね。
でも愛社精神は求められる。
はい。
愛社精神なんてなくても、満足度が高いほうが重要だと思うんですけど。そもそも満足度が低いのに愛社精神なんて湧くんですか。
そうですね。職場への満足度は確かに低いです。G8では最下位。
愛社精神なんて求めるから下がっていくんじゃないですか。
確かに「愛社精神」って言われると違和感ありますね。
今やってる仕事が「好きか嫌いか」ってのは、確かに大事なことだと思うんです。でも自分が所属している会社を愛するかどうかって、ちょっとずれてる気がする。
安田さんも昔は言ってなかったですか?
言ってました。昔は愛社精神豊かな社員といるのが心地よかった。けど、あれって「単なる社長の思い込みだったんじゃないか」って気がしてます。
中小企業では社長イコール会社ですからね。
はい。
つまり「俺のこと愛せよ」みたいな感じで。
愛社長精神ってことですか。
愛社精神=愛社長精神という図式です。
確かに。そういうのに酔ってただけかもしれないです。
仕事を好きになってもらうことのほうが本質なんでしょうね。
けど社長も愛社精神に「社員」を含んでる人が多いですよ。
社員のことを愛してると。
「社員もひっくるめて会社を愛してる」というイメージですね。
人によるんじゃないですか。
社員を愛してない社長もいるってことですか。
いや、相手によるんじゃないですかってことです。愛社精神が強い社員のことは社長も愛してると思いますけど。
なるほど。そこはバーターだと。
中小企業の愛社精神って、報酬や福利厚生の不足を補ってる部分があるから。
不足を補ってる?
本当は50万の給料を払わなくちゃいけないんだけど。30万しか払えないから「20万は愛社精神で補ってね」みたいな。
なるほど。「愛してるなら我慢してね」ってことですね。
そういうニュアンスがあります。会社が社員に愛社精神を求める時って。
そう考えると働く側にとって愛社精神って無意味ですね。GAFA社員の「愛社精神なんて無価値だ」っていう主張は非常にまっとう。
そうですね。その職場の「何が好きか」は自分で決めたらいいって話でしょうね。
たとえば愛社精神はないけど「仕事に誇りとやりがい持ってる」って人もいるじゃないですか。
はい。
逆に愛社精神は満ちてるんだけど「まったく仕事には誇りもやりがいも感じてない」って人もいます。
はい。
愛社精神なんてなくても、仕事に誇りを持ってる人のほうが「まともなプロ」って感じがするんですけど。
確かにそうですね。
だけど中小企業の場合は、愛社精神の強い人が重要ポジションにいたりします。
多いですね。
社長にかわいがられてリーダーやってたり。
現場の人がちょっと冷めてて。
現場は不満が溜まりますよ。「実際に仕事やってんのは俺らじゃないか」って。
そうですよね。ロイヤリティの高い人が上がってく仕組みになっちゃってる。そこが問題かもしれないです。
仕事はできないけど社長に対する忠誠心は高い。そういう人が上にいると下は結構大変です。
バランスの問題じゃないですか。愛社精神を「仕事ができるかどうか」よりも優先したらよくない。愛社精神は二番目、三番目ぐらいで。
一番にもってくるからややこしいことになると。
愛社精神が大事だっていうコンサルタントも多いですね。
そうなんですか。
会社好き、仕事好き、お金好きという順番です。
へえ。どうしてその順番なんでしょう。
まず、お金が好きな人は頑張って働くと。でも、もっといいのは仕事が好きな人だと。仕事が好きな人は、その仕事が好きだからいくらでも働くと。
確かに。
そしてさらにいいのは会社好きな人だ。転職しないし会社のために頑張ってくれる、と。
なんかちょっと古いですね、発想が。
はい。もうそういう時代じゃないんだろうなって思います。
これからも日本企業は愛社精神を求めるんでしょうか。
優先度が一番上じゃなくなっていくとは思います。
いちばん上はお金でしょうか。
いちばんは仕事じゃないですかね。
働く側からしたら一番は待遇でしょう。楽して稼げること。二番目は自分の好きな仕事。会社が好きかどうかなんて一番下って感じ。
確かに。ちょっとしっくりきちゃいました(笑)
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。