泉一也の『日本人の取扱説明書』第136回「地域の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
「そこの扉、開けたらあかん」
関西人ならすっと入ってくるが、標準語では「扉を開けたら、開かない」という意味不明の言葉になる。
日本語族はこの狭い日本列島の3割程度しかない平野に密集して住んでいながら、方言やなんとか弁といった種類が140以上ある。ありがとうだけでも「ありがとうさん(愛知)」「ありがとうごす(青森)」「あんがとう(千葉)」「してもらって(福島)」「まんずどうもね(宮城)」「うたてー(岐阜)」「きのどくな(福井)」「おおきに(兵庫・大阪)」「たまるか(徳島)」「にへーでーびる(沖縄)」と様々。51通りの「ありがとう」があるらしい。
語彙だけでなく、文法にイントネーションといったバリエーションがさらに加わり、日本語をマスターするには、人生80年では短すぎる。英語などの外国語を学んでいる暇はない。
日本は地域多様性の国であったのに、戦後、標準化されたモノトーン国に一気に変わった。「標準語」という言葉は、戦後になって使われるようになった。この素晴らしき標準化のお陰で、日本全国どこに行っても、サービスに品質に価格的にも満足できるチェーン店が立ち並び、そこにいる店員さんは標準語で話をしてくれる。便利で安心、快適!
その影響で、日本人は旅行というと、テーマパークか海外が中心になった。地方に旅行に行っても、異世界に入り込んだような面白さがすっかり消え失せたからだ。
「にいちゃん、どっからきたん?」
「ほないな遠いとこからきよったんかいな、えらいこっちゃやな」
「ここいらは何もあれへんけど、ええとこやで。せっかくここでおうたんやから、かっこええにいちゃんに飴ちゃんあげるわ」
マイクロソフトのword で原稿を書いているが、「」の中は赤線だらけ。間違いを指摘されているような、そんな気分になる。
「」のような声がけをしてくるオバちゃんが観光資源であったはずなのに、今や絶滅危惧種。標準化されたおばちゃんばかりなので、面白くもクソもあらへん。そりゃあ夢の国にいってまうで。おっと、言葉が標準から外れてしまった。
マイクロソフト君に赤線を引かれて気づいたが、GHQも赤線撤廃のようなことをして逆効果だったように、赤線はある程度ある方が健全かもしれない。
地域多様性を標準化で消していった先にある未来は、便利で安心、快適!であるが、全然面白くない世界。すでにある程度は、便利で安心、快適!は実現できたんやから、そろそろ面白い世界を作る時がきたんちゃうやろか。赤線がうっとうしいが、2021年はそっちに舵をきるか。
「面舵いっぱい!赤線方向へ」
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。