泉一也の『日本人の取扱説明書』第149回「横並びの国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
50メートル、8秒80。
2005年、愛媛県松山市立・石井東小学校のチームが叩き出した30人31脚の世界記録。
305人306脚。
2010年、代々木公園陸上競技場にて305人で50メートルを歩いたギネス認定記録。
小学校の運動会では二人三脚が定番。調べたわけではないが、ムカデ競争やデカパン競争といった派生競技も入れたら、ほぼあると言って間違いないだろう。
「どんだけ〜」
と指を立てて言いたくなる。
こうして、子供の頃に「横並び」を体で学ぶ。
横並びには、達成感と一体感といった恍惚がある。人としての喜びだろう。しかし、ここに大きな罠がある。横並びができない、足手まといに対して、嫌悪感を持つ。自分たちの喜びを取り上げる存在に見えるのだ。そして自分が足手まといになると、周りに迷惑をかける存在として自己嫌悪し、自己卑下をする。
元々、運動会は軍隊の訓練から始まった。横並びの突撃は相手の陣地を奪う陸戦としては重要で、それを体で覚える訓練として二人三脚はとってつけ。日露戦争において、戦局を日本有利に変えた203高地の戦いでの日本軍の強さは、横並びの力にあるだろう。この戦闘で亡くなった兵士は日本軍15400名、ロシア軍16000名と言われている。そして、この成功体験が、太平洋戦争では玉砕の突撃につながる。
玉砕は「武士道とは死ぬことと見つけたり」といった武士の美学を感じるかもしれないが、幕末の頃、西洋式の軍隊の訓練に来日した外国人教官は「日本の武人は行進すらまともにできない」と頭を悩ませたそうだ。
「横並び」は日本に昔からある文化のように感じるかもしれないが、明治以降の軍人文化にすぎない。植民地化されないように急激に西洋軍隊化し、そこで成功体験を得たことで日本人に根付いてしまった。
さらにこの横並び文化で成功体験を積む。戦後の標準化による大量生産とマスコミ主導の大量消費による経済成長だ。世界史に残る戦後復興だった。生産側は一括採用、年功序列、終身雇用。消費側は、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、そしてマイカーにマイホームといった3種?の神器。横並びの歯車がガッチリと噛み合ったのだ。
時代は平成になってこの大量生産と大量消費の歯車が噛み合わなくなってきた。ギシギシと軋み出し、がんばって力をかけても、噛み合わせが悪いので力がうまく伝わらない。働けど働けど生産性が上がらず。給料も上がらず。強みが活かせなくなった。
ではどうしたらいいのか。横並びの特性を活かして「横並びを止めること」を横並びすればいい。みんなで渡れば怖くない。では、どこに渡るのか。それは、横並びの元になっている、義務教育、一括採用、年功序列、終身雇用をやめて、権利教育・全国民個人事業主・ベーシックインカムにセーノで一歩踏み出せばいい。1億2千万人1億2千万1脚をするのだ。
ギネス認定を目指して。
泉 一也
(株)場活堂 代表取締役。
1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。
「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。