オリンピック選手に暴力を振るった話。女子空手の。

はい。パワハラのやつですよね。

そう、パワハラで。「またか」という感じですけど。柔道やレスリングでもあったし。

そうですよね。

普段から言葉でのパワハラを受けていたそうで。極めつけは「練習中に竹刀で目を突かれて失明しそうになった」って。

「指導の一環で」というパターンですね。

いつもそれですよ。「いや、これは指導なんだ」とか「非常に選手思いの人だ」とか「家族のように思ってた」とか。

必ずそういう話が出てきます。

そういうことは関係ないじゃないですか。家族思いだろうが何思いだろうが、竹刀で目を突いたらいかんわけで。そんなのは当たり前だと思うんですけど。

部活とまったく同じで、自分がうまくいったことを繰り返すんです。「先輩からしごかれて、それで甲子園に行けました」って。

甲子園に行けたらパワハラも感謝に変わると。

厳しい練習が美化されて、感謝に変わるわけです。

「いつか、きっとこいつもわかってくれる」みたいな。

自分が苦しかったことは忘れちゃう。だから自分が指導者になったとき、また同じことをやろうと思う。要は何も考えてないんです。

このご時世に「パワハラや暴力的な指導はダメだよね」ってことはわかってると思うんですけど。

本人はパワハラだとは思ってないんですよ。

パワハラ以外の何ものでもないですけど。「うちの練習に参加しないなら強化試合に出させない」とか。

やってることはそうなんです。

しかもこれって部活じゃなくオリンピックの話ですよ。しかも金メダル候補の選手。表に出たらたたかれることぐらい、容易に想像がつくと思うんですけど。

指導者のおごりだと思います。特別な関係だと思ってるんじゃないですか。その自信があるから「まさかこいつは人には言わないだろう」と。

見事に暴露されちゃいましたけど。

まわりが見えてないんだと思います。「俺に言われたことをやっとけば絶対によくなる」と思い込んでる。

組織委員会にも直訴してたみたいです。でも委員会の人が指導者に忖度しちゃって。

組織的に根深いですよね。

自分に歯向かったから「もうおまえは出してやらない」って。駄々こねてる老人にしか見えないんですけど。

パワハラしてる人って「自分はパワハラしてない」と思ってるので。

でも自分の監督生命、指導者生命が終わるかもしれないわけですよ。選手にしたって、自分の選手生命をかけて直訴してるんでしょうし。

そうですね。

そこまで追い詰められてるのが、すぐ近くで指導しててわからないもんですかね。

特に名指導者と言われる人って、いろんな人からちやほやされて、どんどん客観性が失われていくんだと思う。

それにしてもやり過ぎですよ。

確かに竹刀で目を突くのは論外ですけど。パワハラする人って繰り返すんですよ。

確信犯ってことですか？

いえ。1回パワハラをして内部告発があって、偉い人から注意を受けたんだけど、またパワハラをして。もう1回注意を受けて、さらにもう1回みたいな。

学習しないってことですか？

「いくらなんでも気づいてるでしょ」って言われても、気づかない人も多いんです。

そういえば厚生労働省で「パワハラ担当部署の人がパワハラしてた」というニュースが出てました。

はい。同じですね。パワハラしてるという自覚がないんです。

どうやってこの人たちに教えたらいいんですか？

自分を認知できないと無理だと思います。指導ってなかなか難しいところがあって、多少厳しくないといけないじゃないですか。

まあ厳しさも必要でしょうけど。

パワハラって「よい成果につなげたい」と思ってやってるケースがほとんどなんです。

そりゃそうでしょう。でなかったらただのイジメです。

成果を出す方法が「詰めることではない」ってことを、どこかのタイミングで学ばないといけない。

厳しさがなくても指導はできると。

いや、厳しさがないといけないんですけど。そこに愛情がないとただ厳しいだけになっちゃうので。

でもこの人は愛情にあふれてたらしいですよ。

そこが伝わってないからこうなるわけで。そもそも殴ったりしたら「アウトだ」ってことを認識しなきゃいけない。

たとえば大坂なおみさんのようなプロテニス選手は、自分でお金を出してコーチを雇ってるじゃないですか。

はい。

大坂さんのコーチも厳しさはあると思うんです。甘いことばっかり言ってたらコーチとしての役割が果たせないわけで。

ですね。

だけど、お金を払ってるのは選手なわけで。嫌だったらコーチは切られちゃう。そういう関係性がすごく理想的な気がするんですけど。

たとえばヨーロッパは民間クラブがものすごく多くて。「このクラブでいいのか？」ってことを親がちゃんと見極めてる。

それがあるべき姿です。

だからパワハラを起こすような監督は置いとけない。

学校だとそうはいかないですもんね。

そうなんですよ。小学校とか中学校の場合は、野球部が嫌でもずっと居つづけなきゃいけない。

ただ今回は大人の話です。オリンピック選手ですよ。

日本の選手協会ってものすごく古い組織なんですよ。そこから抜け出せないし「その人の言うことを聞かないと絶対うまくいかない」という環境をつくり出しちゃう。

そこに問題があるって、みんな認識してるはずなのに。「こういうタイプの人は指導者にしちゃいけない」って、わかってるはず。

日本社会では「選手として結果を出した人」が上にあがっていくんですよ。会社でもトップ営業マンが総じて上に行くじゃないですか。

たしかに。元トップセールスの社長も多いです。

それがいちばんの問題です。

今回パワハラをした指導者も空手8段だったそうです。

「過去に何人有名な選手を育てた」とか。それが組織における政治力に直結してる。

なるほど。これはスポーツに限った話じゃないですね。

日本のあらゆる組織で起こってる問題です。ものすごく闇が深いんです。