第146回「終身雇用の番人」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第145回「雇用は誰が生み出すべきか」

 第146回「終身雇用の番人」 


安田

サイボウズで「新卒を取締役就任させる」というニュースが流れました。

石塚

はい。

安田

新卒に年収1,000万払う大企業も出てきて。これもその一環ですか?

石塚

そうだと思います。マイクロソフトがなぜGoogleに後れをとったのかという分析があるんですけど。

安田

ほう。

石塚

その中に「マイクロソフトは職位が上がるほど、レイヤーが上がるほど、ネットサーフィンしない」という理由があるらしいです。

安田

ネットサーフィンしない?

石塚

つまり会社のレイヤーが上がれば上がるほど、情報感度が鈍いっていう。

安田

面白い考察ですね。

石塚

マイクロソフトだって若い人はネットサーフィンして、いろんな情報収集をしてるはずなんです。けどそれが吸い上がらない。

安田

なるほど。

石塚

たぶんサイボウズは「君たちの意見や考えのほうが新しいから、僕たちに教えて」ってことだと思う。

安田

ひとつ確認したいんですけど。

石塚

なんでしょうか。

安田

これは「優秀な子がいたから取締役にする」ということなのか。それとも「取締役を前提に今までいなかった人を採用する」ということなのか。どっちなんですか?

石塚

前者だと思います。

安田

「これほど優秀な新卒なら、いきなり取締役でもいいだろう」ってことですね。

石塚

とにかく「偉い人だけで会社の方針を決めると間違える」というふうに、トップは考え始めてる。

安田

トップはかなり危機感を持ってるんですね。

石塚

もちろん。だから似たようなことをどこもやってるわけです。伊勢丹も新入社員を講師にして、課長以上がトレンドを学ぶってことをやってます。

安田

新入社員が課長に研修するんですか?

石塚

「いまのファッショントレンドは君たちがいちばん詳しいから、教えてくれ」「何がどうなってるの?いま」って。

安田

すごいですね。どんな研修なんですか。

石塚

「いまはこんなふうにモノを選んでます」「こんなのがいいと思ってます」という研修。実際かなりの人数が聞きに来るんですよ。

安田

三井物産でも「30歳の人を部長にする」って話が出てましたね。これも根っこは同じですか。

石塚

同じです。

安田

じゃあ三井物産も、新卒がいきなり取締役になる可能性がある?

石塚

三井物産は無理だと思います。

安田

無理ですか。

石塚

三井物産はさすがに人数が多いので(笑)ただ三井物産って、商社業界ではトップを取れる分野がなくなってきてて。どのカテゴリーも3番手4番手なんですよ。

安田

へぇ~。天下の三井物産が。

石塚

だから若返りをすごく意識してますね。いまは退任されましたけど、前の安永社長はたしか取締役32人抜きだったかな。

安田

とはいえ50代でしょう。

石塚

そうなんですよ。おっしゃる通り。

安田

たとえば、サイボウズがこんなこと出来るのは、やっぱりベンチャーだからですか。いわゆる昔ながらの大企業では難しい?

石塚

トップのガバナンスによりますね。ただ方向としてはそっちに行くと思います。

安田

へえ。そうですか。

石塚

はい。ジョブ型採用がもっと進めば。

安田

メンバーシップ制では無理だと。

石塚

「勤続何年=ロイヤリティ」みたいな形になってるから。そこの殻を破れないんじゃないかと思う。

安田

「30歳で部長級」というのを三井物産が打ち出しましたけど。これは20代で辞めてしまう若手に「30歳で上げるから辞めないで」というメッセージですか。

石塚

そうです。「優秀だったら部門を任せるから、部署を任せるから」って。

安田

それで思いとどまりますかね。

石塚

何百億というサイコロを振れるわけですから。ビジネスのレバレッジが利くので、やりたいという人は当然増えますよ。

安田

その場合、いままでの部長職とか、いままでの取締役と比べて、報酬はどうなるんですか?

石塚

会社によりますけど当然報酬は上がります。ガーンと。

安田

ガーンと上がりますか。たとえば30代で年収3,000万4,000万取る人も出てくる?

石塚

十分にあると思います。

安田

へえ。

石塚

三井物産の部長であれば2,500万から3,000万ぐらいの年収なので。

安田

それが30歳でも可能だと。

石塚

可能だと思います。

安田

そうすると同期の中で「ものすごい差」が開いていくじゃないですか。

石塚

はい。

安田

スペシャルな人材も必要でしょうけど、「その他大勢」もいないと大企業は回らないですよね。

石塚

もちろん。

安田

現実的には手足もないと動けないわけで。じゃあ、言ったことを言ったとおりやる人が98パーぐらいいて、1・2パーセントのスペシャルな人がいる感じ。

石塚

そうなるでしょうね。

安田

ジョブ型採用になった場合、いわゆるゼネラリストはどうなりますか?

石塚

年収は下がりますし、その前にまずゼネラリストの人数を減らすと思う。

安田

へえ。

石塚

大企業はもう、自前で人を育てることをしなくなると思う。

安田

なんと。

石塚

作業レベルの仕事をやってる人は、大企業でも500万ぐらいが精一杯ですね。管理職も最少の人数でいい。

安田

マネジメントは誰がやるんですか?

石塚

スペシャリストのいちばん上が「スーパーゼネラリスト」になります。マネジメントできて、企画やれて、ビジネスつくれて、プレゼンもうまい。マーケティングもわかるっていう人。

安田

そんなスーパーマンみたいな人、ほとんどいないでしょう。

石塚

はい。だからマネジメントなしで回る現場が増えると思います。

安田

マネジメントなしで回せるんですか?

石塚

AIとの組み合わせですね。

安田

AIとの組み合わせ?

石塚

はい。つまりAIと一緒に番をする人が必要になってきます。

安田

番をする人?

石塚

AIの指示に従ってスペシャリストに連絡したり、スペシャリスト同士を繋げていく役割ですね。

安田

それはいわゆるマネージャーとは違うんですか。

石塚

自分の頭で考える必要がないので。年収500万ぐらいの終身雇用の番人ですね。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから