日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「中東では自由恋愛できないって本当ですか?(その2)」
回答
前回、自由恋愛に関連する文化的背景について触れました。
今回はサウジアラビアで聞いた実際の声をお届けしたいと思います。
仕事で知り合ったサウジアラビア人は「学生時代、ショッピングモールで女の子達に声を掛けて遊んだことがある」と言っていました。お気づきかと思いますが、これはただのナンパです。
初めてその話を聞いた時は「最も厳格と言われているサウジでそんなことが許されるのか?」と驚きましたが、彼の口ぶりから嘘を言っているようには聞こえませんでした。
サウジアラビアには「勧善懲悪委員会」と呼ばれる宗教警察が存在します。
この組織は、市民の暮らしが「彼らの考えるイスラムの教義」に則って行われているかどうかのチェック&取り締まりを行っているのですが、彼らは風紀の乱れも見逃しません。街中で未婚と思しき男女が一緒にいるのを見れば厳重注意をするでしょうし、ナンパなどもってのほかです。
現在のサウジはオープンな国になるべく急ピッチで近代化を進めています。海外からの客を呼び込み、観光やエンタメ産業を育てて行きたいという野心を持った国にとって、このような組織が幅を利かせているのは都合が良くありません。したがって近年は宗教警察の社会的影響力は低くなってきているのですが、上の彼の話はまだ十分な影響力を持っていた頃のことです。
親族以外の男女が接触するとかマズいんじゃないの? と聞くと、「まあそうなんだけど、女の子側さえOKだったらいいんだよ。仮に外部からのツッコミがあっても、女性側が『この男性は親族なので』と言えば大丈夫」と笑っていました。女性側がOKでない場合は無視されるだけ。思っていたより普通です。
また別の友人の話では、妹がイエメン人男性と恋に落ちて結婚したがっているが、その是非について家族会議が頻繁に開かれるのでウンザリしているとのことでした。同じ宗教、同じアラブ人同士でも、サウジ人がイエメン人と結婚することに異議がある人もいるのです。猛反対の父親と理解を示す母親、他の兄弟の中でも意見が割れており、取りまとめ役として立ち回るのに苦労していました。日本でも国籍や家柄の違いが結婚に支障をきたすケースはありますが、それに近いものがあるかもしれません。
こちらもお見合いではなく自由恋愛だからこそ発生したケースです。
このように、話を聞くかぎり「自由恋愛ができない」ということはありません。
前回の記事では女性の純潔性が重視されていることをご紹介しましたが、それに関連してか巷には処女膜再生手術なるものも存在しているようで、裏を返せばそのニーズの分だけ自由恋愛が存在しているということでもありますね。
ただ、婚前交渉など認めないという考えも根強く存在しているのも事実で、現在は伝統的価値観と変化の波が共存している時期なのかもしれません。
近年はマッチングアプリもよく使われています。SNSの普及率がスゴいので当然ともいえますが、次回はそのあたりの最新事情をお届けしたいと思います。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。