2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第157回「買収に備えて準備せよ」
ちょっと前になるんですけど。イギリスの投資ファンドが2兆円で東芝を買収にきてるっていう話。
ええ。
「ついに東芝も身売りか」みたいになってまして。東芝って大きな赤字を出しましたよね。原発の買収かなにかで失敗して。
そうです。アメリカのウェスチングハウス。その買収で失敗しちゃって、そこに東日本大震災が追い打ちをかけて。
M&Aも難しいですね。下手に手を出すと逆に飲まれちゃう。
そうなんですよ。とくに日本企業は海外でのM&Aがすごく下手なので。
同じ土俵で戦える気がしません。
野村證券しかり。日経はフィナンシャル・タイムズをものすごい金額で買ったし。
へえ〜。
「あんなの高く買いすぎだ」って多くの人が言ってます。
日本人って、ちょっとお金持つと「エンパイアステートビル」みたいなのを買いたがるから。
ほんとですよね(笑)
安くなったら、すぐまた買い戻されちゃって。
やってることが素人なんですよ。
東芝も買収で失敗して、主力の事業を売らざるを得なくなって。
稼ぎ頭の事業まで売らざるを得なくなりました。
もう柱になる事業が「ほとんど残ってない」という話ですけど。なぜそんな会社にイギリスの投資会社は2兆円も出すんですか?
まだそれだけの価値があると計算してるんでしょうね。
どこに価値があるんですか。テレビも駄目だし、サザエさんからも撤退したし。
事業そのものの価値でしょうね。
まだまだ、やりようによっては儲かると。
そうですね。事故はありましたけど原子力発電も将来性はあります。
ありますか。世界はもう原子力発電を無くす方向では?
じゃあ原子力発電所をなしにできるかっていうと、それはまた現実的じゃない。経営のやり方を変えていけば利益も出るでしょう。
半導体事業は売っちゃったんでしたっけ?
半導体も売りましたね。メディカルも売りましたし。
メディカル事業は稼ぎ頭って言われてたのに。売らないとお金が回らないってことですか。
そうなんですよ。主力事業が収益事業じゃなくなってますから。
日本人の中では「東芝=サザエさん」です。ゴールデンタイムに超優良企業のイメージが刷り込まれていて。「ついにあの東芝が……」って感じです。
そうですよね(笑)
やはり世界的な流れからいくと、東芝もどこか海外ファンドの傘下ってことになるんですか。
東芝の場合は経産省が過剰に肩入れして、それが裏目に出たんでしょうね。
経産省が?
原発事業ってトップシークレットレベルの技術がたくさんあるんです。ちょっと転用するとぜんぶ軍事にもなる。
なるほど。
だから国としたら、赤字でも原子力発電に関わる機密を海外に持っていかれたくない。おそらく経産省がちょっとルール違反して肩入れしてたんでしょう。
だけど上手くいかなかった。
そうですね。海外ファンドが弱みにつけこんで、叩くだけ叩いて買っていくでしょう。
現場の社員ってみんな真面目だし、まだまだ技術力もあるわけじゃないですか。
そう思います。
そこだけで価値がありますよね。
はい。
やっぱり日本の大企業は上が機能していないんでしょうか。
おっしゃる通り。
買収されて欧米のプロ経営者に任せた方が、現場は安心かもしれません。
グローバル企業の経営はとてもむずかしいですから。日本のじいさんたちには無理でしょう。
買収される側はいろいろ複雑だとは思いますけど。
はい。買収するのが中国企業かもしれないし。そこは選べませんから。
どこに買われたとしても、現場の社員は働きつづけられるんでしょうか。
う〜ん。グローバルに乗せてしまうと、いちばん賃金が安くて、いちばん儲かるところに経営資源をぜんぶ移してしまうから。
ベトナムとか?
もっと賃金が安くて、土地も安くて、海に隣接して、原子力発電所を20個ぐらいつくれそうな場所。たとえばアフリカとか。
そういう場合って、買収された社員はどうなりますか。
もうシビアに削られると思います。
優秀な人も?
英語でコミュニケーションができて、グローバルビジネスについていけて、海外駐在も「YES」って言える人は残れるかもしれません。
そういう人って何%ぐらいいるんですか。
5%未満じゃないですか。
そんなに少ないんですか!
少ないと思います。
いまリストラ対象の50代の人たちって、買収があったときはどうなるんですか。
もう終わりですよね。
解雇ってことですか?
まず希望退職を言い渡され、残ったとしても新しい評価制度や賃金体系に変わる。
日本の労働法では一方的な不利益変更はできないですけど。
そこはプロが上手くやるんでしょう。たとえば異動に関しては、雇用を維持する限りかなり広く認める判決が出てますから。
じゃあ残っても条件は厳しくなる。
間違いなく。いずれにしてもどんどん増えていくと思います。外資系企業や外資系ファンドによる日本企業の買収が。
社員さんたちは不安でしょうね。
いつ何が起こっても「何でも来い」という準備をしておかないとダメです。
グローバル人材になる準備ってことですか。
いえ。それで生き残れるのは一部だけなので。
じゃあ残りの人たちはどうしたらいいんですか。
いつも言ってる通りです。持ち家は早めに処分してキャッシュで持っておく。そして生活レベルを下げる。年収600万円以上の暮らしは絶対にしないこと。
そういう準備ですか。
それしかないでしょ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。