第157回「買収に備えて準備せよ」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第156回「いちばん儲かるのは誰?」

 第157回「買収に備えて準備せよ」 


安田

ちょっと前になるんですけど。イギリスの投資ファンドが2兆円で東芝を買収にきてるっていう話。

石塚

ええ。

安田

「ついに東芝も身売りか」みたいになってまして。東芝って大きな赤字を出しましたよね。原発の買収かなにかで失敗して。

石塚

そうです。アメリカのウェスチングハウス。その買収で失敗しちゃって、そこに東日本大震災が追い打ちをかけて。

安田

M&Aも難しいですね。下手に手を出すと逆に飲まれちゃう。

石塚

そうなんですよ。とくに日本企業は海外でのM&Aがすごく下手なので。

安田

同じ土俵で戦える気がしません。

石塚

野村證券しかり。日経はフィナンシャル・タイムズをものすごい金額で買ったし。

安田

へえ〜。

石塚

「あんなの高く買いすぎだ」って多くの人が言ってます。

安田

日本人って、ちょっとお金持つと「エンパイアステートビル」みたいなのを買いたがるから。

石塚

ほんとですよね(笑)

安田

安くなったら、すぐまた買い戻されちゃって。

石塚

やってることが素人なんですよ。

安田

東芝も買収で失敗して、主力の事業を売らざるを得なくなって。

石塚

稼ぎ頭の事業まで売らざるを得なくなりました。

安田

もう柱になる事業が「ほとんど残ってない」という話ですけど。なぜそんな会社にイギリスの投資会社は2兆円も出すんですか?

石塚

まだそれだけの価値があると計算してるんでしょうね。

安田

どこに価値があるんですか。テレビも駄目だし、サザエさんからも撤退したし。

石塚

事業そのものの価値でしょうね。

安田

まだまだ、やりようによっては儲かると。

石塚

そうですね。事故はありましたけど原子力発電も将来性はあります。

安田

ありますか。世界はもう原子力発電を無くす方向では?

石塚

じゃあ原子力発電所をなしにできるかっていうと、それはまた現実的じゃない。経営のやり方を変えていけば利益も出るでしょう。

安田

半導体事業は売っちゃったんでしたっけ?

石塚

半導体も売りましたね。メディカルも売りましたし。

安田

メディカル事業は稼ぎ頭って言われてたのに。売らないとお金が回らないってことですか。

石塚

そうなんですよ。主力事業が収益事業じゃなくなってますから。

安田

日本人の中では「東芝=サザエさん」です。ゴールデンタイムに超優良企業のイメージが刷り込まれていて。「ついにあの東芝が……」って感じです。

石塚

そうですよね(笑)

安田

やはり世界的な流れからいくと、東芝もどこか海外ファンドの傘下ってことになるんですか。

石塚

東芝の場合は経産省が過剰に肩入れして、それが裏目に出たんでしょうね。

安田

経産省が?

石塚

原発事業ってトップシークレットレベルの技術がたくさんあるんです。ちょっと転用するとぜんぶ軍事にもなる。

安田

なるほど。

石塚

だから国としたら、赤字でも原子力発電に関わる機密を海外に持っていかれたくない。おそらく経産省がちょっとルール違反して肩入れしてたんでしょう。

安田

だけど上手くいかなかった。

石塚

そうですね。海外ファンドが弱みにつけこんで、叩くだけ叩いて買っていくでしょう。

安田

現場の社員ってみんな真面目だし、まだまだ技術力もあるわけじゃないですか。

石塚

そう思います。

安田

そこだけで価値がありますよね。

石塚

はい。

安田

やっぱり日本の大企業は上が機能していないんでしょうか。

石塚

おっしゃる通り。

安田

買収されて欧米のプロ経営者に任せた方が、現場は安心かもしれません。

石塚

グローバル企業の経営はとてもむずかしいですから。日本のじいさんたちには無理でしょう。

安田

買収される側はいろいろ複雑だとは思いますけど。

石塚

はい。買収するのが中国企業かもしれないし。そこは選べませんから。

安田

どこに買われたとしても、現場の社員は働きつづけられるんでしょうか。

石塚

う〜ん。グローバルに乗せてしまうと、いちばん賃金が安くて、いちばん儲かるところに経営資源をぜんぶ移してしまうから。

安田

ベトナムとか?

石塚

もっと賃金が安くて、土地も安くて、海に隣接して、原子力発電所を20個ぐらいつくれそうな場所。たとえばアフリカとか。

安田

そういう場合って、買収された社員はどうなりますか。

石塚

もうシビアに削られると思います。

安田

優秀な人も?

石塚

英語でコミュニケーションができて、グローバルビジネスについていけて、海外駐在も「YES」って言える人は残れるかもしれません。

安田

そういう人って何%ぐらいいるんですか。

石塚

 5%未満じゃないですか。

安田

そんなに少ないんですか!

石塚

少ないと思います。

安田

いまリストラ対象の50代の人たちって、買収があったときはどうなるんですか。

石塚

もう終わりですよね。

安田

解雇ってことですか?

石塚

まず希望退職を言い渡され、残ったとしても新しい評価制度や賃金体系に変わる。

安田

日本の労働法では一方的な不利益変更はできないですけど。

石塚

そこはプロが上手くやるんでしょう。たとえば異動に関しては、雇用を維持する限りかなり広く認める判決が出てますから。

安田

じゃあ残っても条件は厳しくなる。

石塚

間違いなく。いずれにしてもどんどん増えていくと思います。外資系企業や外資系ファンドによる日本企業の買収が。

安田

社員さんたちは不安でしょうね。

石塚

いつ何が起こっても「何でも来い」という準備をしておかないとダメです。

安田

グローバル人材になる準備ってことですか。

石塚

いえ。それで生き残れるのは一部だけなので。

安田

じゃあ残りの人たちはどうしたらいいんですか。

石塚

いつも言ってる通りです。持ち家は早めに処分してキャッシュで持っておく。そして生活レベルを下げる。年収600万円以上の暮らしは絶対にしないこと。

安田

そういう準備ですか。

石塚

それしかないでしょ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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