2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第179回「とてつもなく高い壁」
第180回「学歴と自己PRの関係」
マイナビが学歴フィルター問題で揺れてますね。
(笑)
上位校と下位校の扱いを分けてたことが、大ひんしゅくを招いて。謝罪に追われてます。
滑稽ですよ。
ずっと採用業界にいた石塚さんには、この問題ってどう見えてるんですか?
公然の秘密ですね。
やっぱそうですか。コメント見ると「そんなの前からみんな分かってるだろう」みたいな感じで。わかっていても表に出しちゃいけないってことですか。
まあ「言わぬが花」っていう。これは単純な構造でして。
単純な構造?
だって新卒は職業経験がないから。仕事の実績ないじゃないですか。
はい。
仕事の実績がなければ、直近の実績って「大学受験でどこに入れたか」っていう、そこに求めるしかないので。
つまり「頭のよさ」ってことですか?それとも「そのために努力した」ってことなのか。大企業はどっちを評価してるんですか?
まず「どのレベルの競争に勝ち抜けるだけの能力があるか」ってことだと思う。
ほお。
目標設定、タイムマネジメント、集中力。学歴はこのへんの指標になりますよね。
なるほど。
2つ目は大まかにいって、その母集団は能力が高い人の割合が高い。たとえば東京だと「日東駒専」と「GMARCH」の間に線が引かれる。
そこに差があるってことですか。
何が違うかっていうと「分からないことがあったとき、即座にパッとタイミングよく聞けるのがGMARCHクラスに多い」って。これはよく現場で聞きますね。
ほお。
日東駒専はそれができない。「おい石塚、大丈夫か?」「あ、大丈夫です!」「じゃあ状況を言ってみろ」「いや、あ…あ……」みたいな感じが日東駒専には多い。
素直に質問できない?
「なんでそういうことを早く聞かないんだよ!」「いや、安田さん忙しいと思ったんで……」みたいな。このへんのレベル感があると聞きますね。
なぜ学歴によって「聞く・聞かないの差」が出ちゃうんですか。
やっぱり入学試験で求めるレベルが違うからでしょうね。
試験のレベル?
ただ規則的に答えを覚えるだけじゃなく、そこに「ひねり」を加えてくる入学試験が上位校は多いから。簡単には入れないんですよ。
上位校に入るにはどういう能力が必要なんですか。
自分なりに問いを立てるとか。自分なりに課題設定するとか。ただ単純に言われたことをやるだけでは、そこに行き着かない。
なるほど。ちなみに早慶レベルはさらに上なんですか?聞くまでもなく解決するとか。
考えてるレベル感とか自分でやれることの範囲が「とても広い人が多い」とは聞きますね。課題意識とか問題意識とか。
「学校の勉強ができる頭のよさと仕事の頭のよさは別だぞ」って昔から言われてますよね。
おっしゃる通り。
だけど一方で学歴フィルターはなくならない。これは単純に確率の問題なんですか。上位校のほうが優秀な人がいる率が高いっていう。
だって新卒は一括採用じゃないですか。
はい。
一括採用ってことは、選考に締め切りがあるわけですよ。
確かに。
短期間でさばくには、これ以上の選抜方法はないってことです。当たり前に考えればわかると思うんですけど。
まあそうですよね。
なんらかの実績をもとに評価をしないといけない。でも仕事はやらせてみないとわからない。
上位校で仕事ができない人もたくさんいますけど。
だから「ドラフト1位で入ったけどぜんぜん活躍しない」なんて話は、野球もビジネスもよくあるでしょう。
言われてみればそうですね。
ポテンシャルで判断する以外ないんですよ。
でも学歴だけでは受かりませんよね。面接で「私は上智です。以上」みたいな学生は落とされちゃうわけで。
(笑)
「アルバイトでがんばった」とか「クラブ活動でリーダーやった」とか「海外に行ってひとりでバックパッカーやった」みたいな話をするじゃないですか。
しますね。
学歴で選ぶならそんな話は必要ないと思うんですけど。
逆に質問ですけど。新卒採用と中途採用で企業が求めるものって同じですか?違いますか?
違うんじゃないですか。
違いますよね。
はい。
中途採用で求めるものってなんですか?
即戦力に近いスキルですよね、やっぱり。
おっしゃる通り。つまり「何ができるか」ってことですよね。
そうですね。
だけど新卒採用で「僕はなにができる」とかってものは、ないじゃないですか。
まだなにもできないですからね。
そうなると新卒は「会社が求める人物像をいかに重ねられるか」、その会社の採用ポリシーにマッチしてるってことを「いかに説明できるか」なんですよ。
成長の伸びしろとかではなく「自社のモデルに合うかどうか」ってことですか。
「成長の伸びしろが欲しい」というポリシーを掲げてる会社には、当然それを説明しなきゃだめですよね。
なるほど。それも企業が求めてるもののひとつってことですね。
そうです。会社によって違うので。
いくら上位校でも「うちの会社には合わない」と思ったら、採ってもらえない?
はい。たとえば大企業で安田さんが「自分で考えてどんどんやるタイプです」なんて言うと、「おい、こういうのはちょっとうちに合わないな」って話になるわけです。
なるほど(笑)
でも成長系のベンチャー企業だったら「やりたいんだったらどんどんやって」っていう。採用ポリシーが違うから、それにどれぐらい合致してるかを見るのが面接。
学生にアドバイスするとしたら、受ける企業によってアピールポイントを変えるべきなのか。それとも素の自分を評価してくれるところに行くべきなのか。どっちですか。
素の自分を評価してくれるところは、どこもないと思う。
ないですか(笑)そんなに甘くないと。
甘くない。だから、ちゃんと採用ポリシーを見て、「どんな人が欲しいのか」っていうのをちゃんと考えないとだめ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。