第157回 セントラルキッチンの個人店

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第157回「セントラルキッチンの個人店」


安田

シコメルフードテックって、知ってますか?

久野

いえ。知りません。

安田

小さな飲食店向けの仕込みに特化した会社で。飲食店ってコロナで人が足りないし、なかなか雇えないじゃないですか。いつどうなるか分からないし。

久野

そうですね。

安田

だけど仕込みをやらないわけにはいかない。大きな会社はセントラルキッチンで仕込みますけど。

久野

小さな飲食店には無理ですよね。

安田

なんと、それをやってしまう会社なんです。1店舗の個人店でも、その店なりの仕込みの材料をレシピ通りにつくってくれる。

久野

パックとかにしてくれて?

安田

そう。味付けとか、使う材料とか、レシピに合わせてやってくれる。

久野

それは凄いですね。

安田

やっぱり世の中は無人化・省人化に向かってるんでしょうか。

久野

そうでしょうね。でもこれはすごく合理的じゃないですか。

安田

画期的というか。

久野

大手はもう全社セントラルキッチンじゃないですか。でもそれって「数があるからできるよね」って話だったんです。

安田

数ありきでしたよね。

久野

それがテックを使うことによって「単品、少量発注」が可能になる。

安田

うどんやラーメンの麺って、お店ごとに縮れ方とか、太さとかを変えて納品するじゃないですか。

久野

はい。

安田

だけどスープは自分でつくってた。これもハイテク技術でボタンをピッと押せばレシピ通りにしょうゆを何グラム入れて、何時間煮込むとか、できちゃう。

久野

この会社にはすごい情報が集まってくることになりますね。どういうレシピが流行っているのか全部分かっちゃいます。

安田

分かりますね。

久野

つゆを研究してくと最後は麺つゆになるらしいんです。だから大手メーカーは万人受けする麺つゆを研究していて。

安田

確かにそばつゆって何に入れても合います。

久野

合いますよね。

安田

あれさえあれば何でも料理できちゃう。

久野

この会社は「ちょっとしたズレ」とかも判断できるはずですよ。

安田

そうですよね。店舗ごとのズレが個性になるわけで。

久野

ぜんぶ同じ麺つゆになっちゃ駄目ですからね。微妙に変えていくんでしょう。

安田

こんな小ロットのオペレーションができちゃうんですね。

久野

人間の仕事がなくなっちゃいますよ。

安田

今までは「人間がやった方が安い」ってことで、人を使ってましたもんね。

久野

最低賃金が上がって人を雇えなくなってくるので。

安田

ですよね。

久野

こういうところに発注する小さな飲食店がどんどん増えるでしょうね。朝6時から家族総出で仕込んでる店とかいっぱいあるじゃないですか。

安田

そういうのもぜんぶ外注しちゃって。やることはレシピを考えることと、お店で混ぜるのと、接客だけ。

久野

物流革命が起きるとさらに広がると思う。ロボが運ぶようになるとか。

安田

ドローンが運んだり。

久野

そのドローンが途中で撃ち落とされたり。

安田

なぜ撃ち落とすんですか。

久野

つゆを盗むために。ドローンを撃ち落として「あそこのレシピを盗め」みたいな(笑)

安田

イトーヨーカドーの小分け野菜パックも凄いみたいです。種類がすごく多いらしくて。焼きそば用、野菜炒め用、鍋用、などなど。

久野

すごいですね。

安田

個人に対してそこまでやるわけですから。お店に対して「言われた通りの材料を、言われた通りに切って、言われた通りに調理して」なんて普通になるかも。

久野

なるでしょうね。

安田

お店で仕込みする人がいなくなりますね。

久野

レベルの高い人材がいらなくなっちゃいます。調理師もいらないし。10店舗に1人ぐらい人がいれば十分。

安田

高級フレンチならたくさん雇えるでしょうけど。ランチ700円の定食屋で人を雇うのは無理がありますよ。

久野

人を雇って安くやるのはもう無理です。

安田

家ですら現場ではもう作ってないそうです。工場で作った部品を現場でパタパタ組み立てるだけ。

久野

基礎だけやったら、家のユニットをトラックが運んできてますもんね。

安田

組み立てるだけなので、もはや大工さんが要らないそうです。飲食もそうなっていくんじゃないですか。

久野

家は工場で作った方が工期も短くなるし、丈夫らしいです。しかも安い。

安田

人材不足の業界ってそうなっていくんでしょうね。

久野

やる会社とやらない会社のIT格差がどんどん広がっていきます。利益率にもすごい差が出る。

安田

人間が仕込みをする時代はもう終わりですか。

久野

仕込みは大変だし、従業員は辞めるじゃないですか。

安田

採用コストも高いですもんね。

久野

IT化すれば機械が全部レシピ通りに混ぜて、作って、小分けにしてくれる。

安田

指定された醤油やミリンをグラム単位で混ぜ合わせて。

久野

人間がやるより正確ですよ。弟子も育てなくていいし。

安田

お客さんはどう思うんでしょう。

久野

人間がやらない方がいいっていうお客さんもいます。「え?店で仕込んでるんですか」とか言われちゃったら悲しいですよ。

安田

「不衛生だ!」「手で触ってるんですか!食材を」みたいな。

久野

100年間継ぎ足し続けた秘伝のタレとかね。

安田

それも再現できるんですか。

久野

無理でしょうね。テックは継ぎ足せないから。

安田

お客さんがそれを求めるかどうかですよね。

久野

たまに心配になる店があります(笑)「大丈夫か?このタレ」みたいな。

安田

法律が変わって駄目になる可能性もありますよね。生レバーの時みたいに。継ぎ足しのタレは駄目ですみたいな。

久野

成分をちゃんと提出しないとダメとか。

安田

200年継ぎ足したタレとか、何が入ってるか自分達でも分からないかも。

久野

江戸時代の何か(笑)

安田

分析するのが怖いですね。

久野

でもシコメルフードさんみたいな会社が出てくると、個人店が増えていくかもしれません。

安田

仕込みの手間がなくなれば楽しい仕事ですもんね。

久野

安いし、美味しいし、チェーン店に行く必要性がなくなります。

安田

でもそれって個人店と言えるのかどうか。

久野

新しいカタチの個人店ですね。レシピはオリジナルで作ってるのはセントラルキッチン。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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