第4回 国家運営と企業経営の違い

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第4回 国家運営と企業経営の違い

安田
今日は国家運営と企業経営の違いについて話してみたいんですけど。

酒井
なるほど。わかりました。
安田
酒井さんが現在やられている事業を見ると、国家課題を企業として解決しているっていう感じがするんです。

酒井
ああ、確かにそういう感覚はあるかもしれません。
安田
それは官僚を経験されたことで、「国の課題を解決したらビジネスになる」という感覚を得たからなんですかね。

酒井
どちらかというと、「自分の強みを活かしてビジネスを伸ばそう」と思ったらそこだった、という感じですかね。
安田
なるほど。そういうことなんですね。

酒井
個人的に、新卒で入った会社の思想ってかなり大きいなと思っていて。私はどこまでいっても官僚脳なので、お金儲けに走ると失敗するんですよ。
安田
ああ、つまりお金儲けという思想がインプットされていないと。

酒井
そうそう。だから私はそこで勝負せずに、「社会課題を解決する」という得意分野で頑張ろうと。そのかわり成果が出たらちょっとフィーをくださいねという。
安田
確かにその方が双方に納得感ありそうです。ともあれ、社会課題を本当に解決して収益を出している会社って、私の肌感覚で言うとすごく少ないように思うんですけれど。

酒井
そうかもしれませんね。
安田
SDGsなんかも、掲げてる会社は多いですけど、ただ世間体を良くするためっていう感じがしてしまうんです。本当に社会課題を意識しているのか疑問だな、と思うこともあって。
安田
そもそも、本当の意味で社会課題を解決するためには、かなりの大資本が必要になると思うんです。大規模なインフラ設備を作るとか。

酒井
それで言うと我々が取り組んでいるのはもっと小さい話で。例えば今は「地方創生」というのが流行ってますが、結局地方の活性化って何かと言えば、要するに雇用が増えて子どもが増えて、みたいなことなんですよ。
安田
なるほど。わかりやすい。

酒井
私が今やっている盛岡の会社には、約250人の社員がいます。この250人の中には、私たちの会社がなかったら正規雇用で働けなかったかもしれない人が結構いるんです。
安田
つまり、酒井さんの会社がその機会を産み出した。子どもが増える、みたいな効果もあるわけですか。

酒井
ええ。これは大分の会社のときもそうだったんですが、正社員として雇用されてしばらく経つと、皆さん結婚し始めるんです。
安田
ああ、なるほど。経済状況が不安で結婚できなかった人たちが、正社員になって安心して結婚すると。

酒井
ええ。何なら社内結婚も増えたりして、結果、総務の○○さんに赤ちゃんが生まれましたとか、そういう話も多くなる。
安田
国が何億円出して地方活性のためのイベントを開催しました、みたいな話よりずっとリアルですね。

酒井
そうなんです。外から見れば、私は会社を作ってITの仕事で金儲けをしているだけに見えるかもしれません。でも、実際に250人の雇用を産み出し、少子化の改善にも多少なりとも貢献している。
安田
つまりそれを酒井さんは「地域課題を解決する」と表現されているわけですね。そしてそこには、官僚時代の経験も活きている。

酒井
経済産業省のミッションって、私は雇用とGDPだと思っていて。そういう意味では今でもやっていることは変わっていないのかもしれません。
安田
そういえば、政治家の人がよく言うでしょう?「雇用を増やします」って。でも、あなたにそんな権利ないでしょうといつも思うんですよ。

酒井
笑。確かにそうですね。自分で会社作って給料を払ってから言えと。
安田
そうそう。雇用する権利があるのは経営者だけだろうと。一方で、経営者の仕事は雇用を産み出すことじゃないんじゃないかとも思うんですよ。利益を増やすための手段として雇用しているだけで。

酒井
仰っている事はわかります。だから必要なくなったら雇わない、というのは当たり前だと思いますよ。でも私自身はやっぱり、「どうやって雇用を産み出すか」を常に考えてしまいますね。
安田
実際、そういう経営者さんは多いですよね。酒井さんとしてはそれが自分の役割だと感じるわけですか。

酒井
そうですねえ。会社は何のためにあるのか、という視点で考えたときに、「儲けるため」というのはもちろんあるとしても、その先にやっぱり「人を育てる」ということがあるんじゃないかと。
安田
ああ、なるほど。人への投資という側面があると。

酒井
ええ。人が付加価値をつける場を作るというのが、やはり儲けた後の社会的意義なんだと思うんです。
安田
それはわかる気がします。まあ、「人を育てるのは会社の義務でしょ?」みたいに思われてたら嫌ですけど。

酒井
それはすごくわかります(笑)。とはいえ、仮にウチで手に職つけて、転職して他の会社に行っちゃったとしても、その人がより幸せになるならいいかなと思ってます。
安田
雇用の仕方も、働き方も、双方自由に選べたほうがいいですよね。社員がいい人は社員、業務委託がいいなら業務委託って、話し合って自由に決められるような。

酒井
いろいろな価値観がありますからね。そういう意味では、もっと人を雇うのが楽しい国になったらいいのになとは思います。その方が国もよくなっていくわけで。
安田
どちらかというと、雇いたくなくなるように国が持っていってる気がしますけどね。雇えば雇うほど大変になっていくし、雇ったからにはずっと面倒見なきゃいけないし。

酒井
それは全く同感です。実際、元官僚の人が自分で会社をやってみて初めて、「こんなひどい制度になっていたのか」なんて驚くという話もあるくらいで(笑)。
安田
笑。お前ら知らずに制度作ってたのかっていう。

酒井
経営者の大変さを知らないんでしょうね。
安田
社会に出たことない人が先生をやっている、みたいな。

酒井
まさにそういう事ですよね。経営したことも雇用したこともない人が、経営や雇用についての制度を作っていると。
安田
そういう意味では、酒井さんみたいに一度経営を経験して、また官僚に戻って制度を作るっていうのがいいのかもしれませんね。

酒井
仰る通りで、役所も今そういうのを増やしてますね。私の先輩にも戻った方がいますよ。
安田
酒井さんは戻られないんですか?

酒井
私ですか? 私はもう勘弁してもらいたいかな(笑)。

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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