第256回「憧れの職業の終焉」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第255回「時間をかけて作る価値」

 第256回「憧れの職業の終焉」 


安田

教師の非正規率が上がっていると言われてまして。なんと今20パーを超えているとか。

石塚

成り手がいないんですよ。教員採用試験の倍率もすごく低い。ほら、モンスターペアレンツもいるし。部活の指導もあるし。

安田

つまり非正規が増えているというより、正規の成り手が減ってると。

石塚

学校の先生=ブラック職場だっていうことが知れ渡っているから。志望者がいないんです。

安田

非正規の人を正規採用してあげればいいじゃないですか。

石塚

非正規もある程度の数が必要なんですよ。正規採用がカツカツだから、正規の人が抜けると非正規を用意しなくちゃいけない。できないと穴が空いてしまう。

安田

なるほど。どちらも足りてないというわけですね。

石塚

そうなんです。「主力選手がケガをしても、控えがいつでもいくぞ」って状態ならいいんですけど。ベンチにも人がいない。

安田

困りましたね。今後はどうなっていくんでしょう。「もうちょっと条件をよくして正規採用を増やそう」ってことになるんですか。

石塚

どうでしょうね。非正規率が高いということは「穴埋めで何とかしている率が高い」ということだから。

安田

まずは非正規を正規雇用してあげたらいいのに。

石塚

たぶん安田さんがイメージしている非正規って、割と若手の先生じゃないですか?

安田

はい、そうですね。正規雇用予備軍みたいな感じ。

石塚

ほとんどの非正規は定年退職した元教員なんですよ。

安田

そうなんですか。

石塚

新人の採用をしたいけど、なかなか入ってきてくれない。ただでさえ評判が悪いし。だから「一度勇退された方をもう1回呼び戻してる」っていうのがいまの実態です。

安田

そんなのどこかで回らなくなりますよ。

石塚

すでに回らなくなってきてます。あまり報道されないんですけど。

安田

どうして報道しないんですか?

石塚

触れたくないからじゃないですか(笑)

安田

なんと(笑)でもこれから少子化になっていくので、どこかで帳尻が合うんじゃないんですか。

石塚

さすが安田さんですね。僕も霞が関がそれを考えているんじゃないかと思う。「一時的にほっかむりすれば、どうせ子どもの数は減るんだから。どっかで落ち着くよ」って。

安田

なるほど。それまでは触れないようにして。

石塚

そうそう。霞が関の官僚はいろんな意味で頭がいいから。考えてると思うんですよ。「どこかで辻褄合うから、あと5年か10年なんとかしろ」みたいな。

安田

新生児もついに100万人を切って77万人ですからね。

石塚

そうなんです。

安田

逆にいま給料を上げて若手の先生を採用したら、後でまたしっぺ返しが来そう。

石塚

おっしゃる通り。新卒採用は増やしたいけど、主力の40代になったら今度はリストラしなきゃいけなくなる。

安田

そういう可能性はありますよね。このままだと。

石塚

あります。だから調整しているんじゃないかと思うんですよ。

安田

なるほど。だから非正規でなんとか乗り切りたいと。

石塚

そう。非正規の人も短期だからやってくれる。みんな60歳以上の方なので「そろそろもう勘弁してください」って感じ。

安田

「正規雇用してほしい」と思っている先生は少ないと。

石塚

そうなんですよ。ほんと年配の人がやっているので。びっくりしますよ。

安田

もっと若手の「これから先生になりたいです」という人はいないんですか?

石塚

それは10年以上前にもう終わってますね。

安田

なんと。もはや若手にはなりたい人がいない。学校の先生って憧れの仕事だったのに。

石塚

昔はそうだったんです。ところが時代が変わって。いまみたいな話になってる。

安田

逆に考えれば、昔だったら落ちていたような人でも先生になれるってことですよね。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

それでも足りないんですか? 

石塚

それでも足りない。それほど不人気なんですよ。

安田

それはやっぱり仕事がハードだから?収入はそんなに悪くないですよね。

石塚

拘束時間にしたら収入はぜんぜん高くないです。45〜50歳ぐらいになると結構いいんですけど、そこまでいかない。女性が安心して子どもを産めない仕事だから。

安田

そうなんですか?

石塚

「妊娠しました」っていうと、職場で一応「あ、いや…おめでとう」みたいな感じだけど……

安田

本当はぜんぜんめでたくない(笑)

石塚

みんな心の中で「チッ、この忙しいのにまた産休かよ!」「こっちは探せねーんだよ!」って。

安田

出産後に戻ってきたら大歓迎されそうですけど。

石塚

戻ったら11時ぐらいまで残業させられますよ。まだ子どもがアバアバしてるのに。

安田

なんと。

石塚

先生は帰れませんよ。いきなり「学級担任持て」とか言われるかもしれません。

安田

昔は両親が学校の先生だと、老後は退職金と年金で悠々自適という感じでした。今は定年まで働ける仕事じゃないんですね。

石塚

うつ病休職も多いです。いまは難しい時代だから。発達障害の方の対応もしなきゃいけなかったり。

安田

生徒の数は昔と同じなんですか?我々の頃には50人クラスとかありましたけど。

石塚

減ってますね。だけど当時の100倍ぐらいコンプラが厳しいし、その頃の100倍ぐらい親もうるさい。

安田

昔は先生に殴られるなんて普通でしたからね(笑)

石塚

いま、そんな鉄拳制裁やったら、次の日には教壇に立てなくなりますよ。

安田

そしたらまた先生が少なくなるっていう。

石塚

スマホで生徒に盗撮されて、「安田先生こんなとこでタバコ吸ってました」とか言われたり(笑)

安田

昔と逆ですね(笑)生徒のタバコを見つけるんじゃなく、先生のタバコが生徒に告発されちゃうっていう。

石塚

修学旅行先のホテルのベランダでちょっと一服してたら、生徒に盗撮されて休職に追い込まれたり。謹慎させられたり。そんなのよくある話です。

安田

恐ろしい時代ですね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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