第255回「時間をかけて作る価値」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第254回「家電が凋落した3つの理由」

 第255回「時間をかけて作る価値」 


石塚

これまでの3倍の値段の「高級子ども服」をミキハウスが作ってますよ。

安田

コロナも明けたし「これから一気に景気がよくなるぞ」ってことでしょうか。

石塚

いやいや。この商品をつくるのに足かけ30年かけてます。

安田

30年ですか!すごい執念ですね。でも30年前とはかなり環境が変わりましたよ。

石塚

「ベビー服なんて一時的なものだし、そんな高いもん買わないよ」ってみんな言いますよね。

安田

みなさん余裕がないですから。

石塚

だけどミキハウスは「素材は絶対これしか使いません。つくり方もこだわってます。だからこの値段です」って、30年前からやってるんですよ。

安田

今どき売れるんですかね。

石塚

いま子どもが少ないから、産婦人科とコラボして退院祝いにミキハウスを出すんですって。「ぜひうちで産んでください」って。

安田

へぇ~。

石塚

貰ったらかなり嬉しいじゃないですか。

安田

今だったら口コミでお客さんが増えていきそうですね。

石塚

我々はミキハウスから学ぶべきですよ。「付加価値の高いものづくり」を絶対途中で投げちゃだめだってことを。だって30年ですよ。

安田

ミキハウスはオーナー企業だから30年もかけられるんですよ。

石塚

創業者の木村さんは既に資本の大半を手放しています。

安田

ということは会社のカルチャーですか。

石塚

そう。トップの鶴の一声ではなく「うちは高級子ども服でいくんだ」というカルチャーが残ってる。だからいい会社なんですよ。

安田

星野リゾートもカルチャーを感じますよね。「うちはみんなでマスク外します」って宣言して。ちゃんと顧客を選別してます。

石塚

高級路線でいく会社はちゃんとブランドを守ってますよ。

安田

中小企業もこういうことをやればいいのに。

石塚

そうなんですよ。ミキハウスのように時間をかけて「ここは譲らないぞ」というところをブランドにして欲しい。

安田

ちなみにミキハウスの商品はいくらなんですか?

石塚

ミキハウスのお客さんは1回の買い物で20万円以上使うそうです。

安田

20万!子ども服で20万って、ちょっと考えられないですけど。

石塚

今は子どもが少なくて、両方のおじいちゃんとおばあちゃんがいるから。財布はあるんですよ。

安田

四人がかりでひとりの孫に色々買うわけですね。

石塚

だから高い物でも売れるんです。

安田

高齢者のために若い人たちが年金をコツコツ払ってるのに。

石塚

お金を持ってる層はいますから。

安田

ミキハウスさんはインバウンドも狙ってるんでしょうか。

石塚

もちろん。ミキハウスをいちばん評価しているのは海外ですよ。中国の人なんてめちゃくちゃ評価してる。

安田

中国人のお金持ちなら20万ぐらい余裕ですね。

石塚

ただでさえ為替で安いから。とくにお土産によく売れるみたいです。

安田

もらったら嬉しいでしょうね。20万の子ども服なんて自分ではなかなか買わないので。

石塚

僕も贈ったことがあるけど、ベビー用品って親がめちゃくちゃ喜ぶんです。だから「ギフトにこれを使おう」ってなるじゃないですか。

安田

出産祝いなら1回きりだし。

石塚

そうなんですよ。

安田

シャツ1枚なら、ちょっとぐらい高くても贈れますもんね。

石塚

そうそう。僕も2万円の「おくるみ」を贈ったけど、2万円のおくるみは自分じゃ買わない(笑)

安田

少子化だからプレゼント市場は狙い目なんでしょうね。

石塚

そうなんですよ。

安田

中小企業も「高くていいものを」を作ればいいのに。

石塚

なかなかやれる人はいませんよ。

安田

小さいほうがやりやすいと思うんですけど。500人に1人のターゲットで成り立つので。

石塚

ほんとそうなんです。

安田

ミキハウスや星野リゾートは「500人に1人でいい」というビジネスじゃないのに。なぜこんな思い切ったことができるのか。

石塚

日本人を相手に組み立ててないからだと思います。

安田

やっぱりそこですか。

石塚

高く売ることを考えると、どうしてもそうなっていきますよ。

安田

「コロナが落ち着いて、インバウンドが増えて、日本でお金を使ってくれるだろう」ということを、計算に入れていると。

石塚

日本製品やおもてなしサービスの競争力は変わらずにあるわけですから。やり方次第ですよ。

安田

もう日本人には高いものは買えなくなると言われてますよね。銀座の高級店も「日本語が通じなくなるんじゃないか」と。

石塚

そうなっちゃう可能性はあります。採用の仕事でスキー場に行ったんですけど、ゲレンデで日本語が聞こえなかったです。

安田

日本のスキー場は外国人に人気がありますもんね。

石塚

それにしてもびっくりしました。「こんなに多いんだ」って。

安田

銀座を歩いていても日本語が聞こえなかったりしますから(笑)

石塚

銀座4丁目の交差点なんて周りはみんな海外の方ですよ。

安田

コロナで3年ぐらいインバウンドが止まったじゃないですか。「もう元に戻らないかも」って思ってたんですけど。一気に戻ってきましたね。

石塚

あっという間にコロナ前を超えると思います。オーバーツーリズムとか、受け入れの問題もあるんですけど。

安田

受け入れの問題ですか。

石塚

要は人手をどうするかっていう。思い切ってインバウンドにシフトして、単価を上げて、賃金も上げて、人を集めればいいんですよ。

安田

賃金を上げれば集まりますか。

石塚

いま18万のところが「30万払う」ってなったら、そりゃ来ますよ。いい食材を「好きに使ってくれ」って言ったら板前も調理師も来ます。だってやりたいですもん。

安田

円安がずっと続けばいいんでしょうけど。

石塚

円安は確かに大きいです。ただ競争力という点でいうと、風景とか、食とか、サービスとかが世界トップレベルなのは間違いない。

安田

日本人はそこに慣れちゃってるから。高いお金を払わないですもんね。

石塚

そうそう。見慣れたそのクオリティが世界ではトップレベルなんですよ。

安田

1食1万円なんて「あり得ない」って感じですけど。海外からの人から見たら高くないんでしょうね。

石塚

今は為替の影響もあるからとくに安い。自国で食べる3割引ぐらいですよ。

安田

インバウンドに特化した「1杯2,000円のラーメン屋」とか出てきそう。

石塚

3,000円でも来るでしょ。宿も1泊10万以上のホテルが地方には必要なんです。仙台ですら1泊10万がない。だから、なかなか海外の富裕層が集まらない。

安田

なるほど。逆に安すぎて。

石塚

安すぎて。だから石川県とかは逆に強いんです。

安田

加賀百万石の老舗旅館とかありますもんね。

石塚

そうなんです。地方の高級旅館や料亭はこれから大チャンスですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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