第14回 正しい予算配分への道筋

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第14回 正しい予算配分への道筋

安田
今回も政治に関連する話題で、「予算配分」について聞いていきたいんですけど。岸田さんの「異次元の少子化対策」も、名前の割に予算は微々たるものじゃないかと言われてますよね。

酒井
まあ、原資は決まってるわけですからね。
安田
少子化対策にしても、高齢者向けの予算を削って子どもに使うしかない、というのは明らかだと思うんですけど。なかなか実現しないのは何故なんでしょうか?

酒井
一つ言えるのは、他でもない政治家の先生自身が「そんなことを言ったら選挙に勝てないじゃないか」と思ってるんじゃないかなと。
安田
本当にそうなんですか? 私の周りの年配に聞くと「もっと若い方に予算を持っていけばいいのに」とみんな言いますよ。だから「高齢者の予算を削って若い人に使う」と主張しても、別に選挙に負けないと思うんですけど。

酒井
政治家の先生が気にされているのは、安田さんの周りの世代よりもう一世代上の層なのかもしれません。それだとまた少し感覚が違うのかもしれないですね。
安田
なるほど。「シルバーデモクラシー」と言われているような、高齢者が優遇される現象を実際に享受されている世代ですね。

酒井
今の70代以上の方々の感覚として、「俺たちは今まで必死に頑張ってきたんだから、たっぷり年金をもらえて当たり前」というのがあって。つまり、「今の若い人も俺たちのように、将来たくさんもらえるようにもっと頑張ればいいじゃないか」と無邪気に考えていたりする。
安田
ああ、自分たちの若かりし時代を投影してしまうと。現実的に世の中はものすごく変わっているのに。

酒井
年代的に、大企業に長年勤めて定年退職された方も多いですからね。終身雇用が既に崩壊しかけているなんて言われてもピンとこない。
安田
確かにそうでしょうね。まあ、経験したことのないことを想像するのは簡単じゃないですから。

酒井
一方の政治家側も「あなたにとってこんなメリットがあります。だから票をください!」と主張をするのが当たり前になってしまっている。そしてご存知のように、若者はあまり積極的に選挙には行きません。
安田
ああ、だから先ほどの「若い人に予算を」という主張も出てこないと。そう考えると日本の政治家は、「目の前の人の利益を餌にする」方法しか知らないとも言えますね。「あなたには不利益ですけど若い世代のために我慢してください」という戦い方はしたことがない。

酒井
ええ。福祉を充実させるとか地元に橋を作るとか、「何かをあげる」ことは言いますけど、逆に「何かをやめる」ことを言って選挙に通ったところはほぼないですね。
安田
ああ、そうなんですか。維新の会が大阪で「無駄をなくす」と言って選挙に通ったり、民主党が「改革ムード」を掲げて勝ったのは、かなり稀なことなんですね。

酒井
稀ですね。あるとしたらその2つだけなので。
安田
でも私なんかは、それは伝え方次第じゃないか、とも思うんです。例えばケネディ元大統領の演説でも「国があなたに何ができるかじゃなく、あなたが国のために何ができるか」と国民を鼓舞してましたよね。

酒井
そうですね。その結果、歴史的にも人気のある大統領になりましたからね。
安田

そう考えたら、「このままじゃ何も変わらないから、もう一度国民が団結して未来のために予算配分を決め直そう!」という主張をすれば、国民にすごく響く気がするんですけどね。


酒井
私もそう思います。ただ、日本全国の300を超える小選挙区で、それだけの主張をして国民を動かせるようなカリスマ性がある人がいるかというと……
安田
う~ん、確かに現実的には難しいかもしれませんね。ある意味、「あなたの負担は大きくなりますけど応援してね」って主張をするわけですもんね。

酒井
ええ。そういう主張をしてなお「よっしゃ任せろ」と応援してもらえる政治家がいるかという話です。それほど熱狂的な支援者のいる人はそういないので。
安田
議員内閣制だというのも要因の一つかもしれませんね。大統領制のように、トップの言うことに国民が賛同すれば大臣が一斉に代わるようなシステムなら、また違うのかもしれない。

酒井
まあ、維新の会のようにトップの求心力で勝つケースもあるので、日本でも不可能ではないんでしょうけどね。
安田

ええ。だから野党の議員さんはもっと大胆にやってもいい気がするんですよ。維新はまだしも、他の野党はどこもジリ貧でしょう? ここら辺で勝負に出ないと何も変わらないんじゃないかと。


酒井
政党全体として、大胆な施策を考えるのはアリなんでしょうけどね。でも議員個人としてはやっぱり、選挙に負けそうな主張はしたくないんでしょう。
安田

ああ、確かに。選挙に通らなかったら収入ゼロですもんね(笑)。


酒井
若い議員の中には「勝負に出よう」という人もいると思いますけどね。一方で、そういう情熱を持った人を担げる政党はあまりない。
安田
そうすると、仮に政権交代が起こったとしても、予算配分を根底から変えるような変革は実現しそうにないと。

酒井
う~ん。ただ、「現状を変えたい」という大きな流れは来ていると思うので、きっかけさえあれば広がっていく気がするんですけどね。
安田

なるほど。維新の橋下さんはそのキッカケにはなれなかったんですか?


酒井
可能性はあったと思いますね。ああいう過激な発言ができるくらい人気があったということですから。
安田

日本が大統領制だったら、維新も政権を取れていたかもしれませんね。でも議院内閣制だから、とにかく国会で最大勢力にならないといけない。それが実現する頃には橋下さんもおじいちゃんになっていると(笑)。

酒井

おじいちゃんになってもまだ無理かもしれない(笑)。まあ、仮に全国を一つの選挙区にしてしまって、一人だけが勝つような仕組みにすれば、あるいはいけるかもしれませんけど。

安田
逆にすべての選挙区に候補者を立てて、「個々の候補者じゃなく私を信じて我が党に入れてください」って言う作戦もアリな気がします。

酒井
最近規模の小さい政党が議席を取ってるのもそういうことなんだと思います。
安田
そうか、確かに。まあ、話題になっている党は的外れな主張も多い気がするので、もう少し真っ当で鋭い主張をしてくれるところが出てくるといいんですけどね。

酒井

過半数が取れないと何もできないというのがあるので、尖った意見を主張するところは出てこない気もしますけど。

安田

そう考えると、「正しい予算配分」を実現するための「正しい主張」こそが、一番難しいのかもしれませんね。


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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