この対談について
庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。
第1回 家に着せる衣服の仕立屋さん
第1回 家に着せる衣服の仕立屋さん
ということで今回から、direct nagomi 株式会社代表・中島さんのお話を聞いていきたいと思います。よろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願いします。
まずは読者の皆さんへの紹介という意味でも、中島さんは何者なのか、何屋さんなのか、という話からさせてもらいましょう。中島さんはざっくりいうと、「庭を作る人」になるんですか?
そうですね。庭の設計や施工もやりますが、同時に外構も手掛けます。外構というのは、門やアプローチ、ガレージやカーポート、塀や生け垣などのことです。
そうなると、「庭師さん」には留まらないし、かといって「外構屋さん」という感じでもないですよね。他にはなかなかいない特別な立ち位置の職人さん、という印象です。
そうかもしれません。私自身、自分は何者なのかお客さんに説明するのが難しくて(笑)。それでコピーライターさんに、「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」というコンセプトを考えてもらいました。
家を人間と考えたとき、庭や外構は「衣服」に当たると。つまりガーメントデザイナーの中島さんは、「家のための衣服を仕立てる人」なんですね。
自分の体にぴったり合った服を着ると、見た目もきれいですし、着心地もいいですよね。それと同じように、家が素敵に見え、暮らし心地もいい庭や外構を作りたいなあと。
いいですねぇ。すごく素敵なお仕事をされているなあと感じます。ということで第一回目の今日は、「庭」という切り口であれこれお話を聞いていきたいなと。何となくですけど、昔の庭と最近の庭ってだいぶ変わっていませんか?
ええ。すごく変わったと思いますね。昔の庭は、まずもって「位置」が違いました。
位置、ですか。
ええ。昔の庭は基本的に、玄関の反対側に作ったんですね。つまり、玄関が北側にある家は、南側に庭があった。
ああ、確かに。駐車場があって、家があって、その奥に庭がありましたよね。
仰るとおりです。駐車場と庭で家を挟むような配置ですよね。でも最近は、土地のどちらかに家を寄せてしまうんです。
言われてみればそうですね。玄関の前に駐車場がバーンとあるイメージです。この変化はなぜ起こったんですか?
家一軒あたりの土地が狭くなっている、つまり土地が高くなっている、というのが現実的な理由だと思います。でもそれと同時に、庭の位置づけ、庭を作る理由が変わってきたんだと思いますね。
と、いいますと?
日本の庭って、昔はずっと「鑑賞するもの」だったんです。つまり、部屋の中や縁側から眺めるものだった。だからたくさん花や木を植えて、キレイに飾ったわけです。
ああ、そうですよね。有名なお庭って、だいたいそういう印象です。でも私なんかはひねくれているので、「たしかにキレイだけど手入れするのは大変だろうなあ」とも思ったり(笑)。
ああ、変化の理由はまさにそこにあるんです。観賞用の庭って、メンテナンスがとても大変なんですよ。毎日掃除をしたり、定期的に庭師さんを呼んだりしないと保てない。でも、今は皆さん、すごく忙しいでしょう?
確かに、昨今はあらゆることのスピードが早くなっていますもんね。毎日そのようなメンテナンスをする余裕は、なかなかないでしょうね。
そうですよね。それでだんだんと、手間のかかる観賞用の庭は少なくなり、メンテナンスしやすい簡易なものに変わっていきました。
なるほど、わかりやすい。用途が変わったことで配置が変わり、スペースも小さくなった。確かに今の時代、「庭を作るので木をたくさん植えます」なんて話、あまり聞きませんもんね。
そうなんです。そんな中で私たちは、今でも比較的多くの木を使っています。だから材料屋さんによく驚かれるんですよ。「これ、一軒に使う木なんですか?」なんて(笑)。
なるほど(笑)。でも実際、家造りという意味で言うと、庭の優先度ってかなり低くなってしまってますよね。一番は家で、次は駐車場、三番目にやっと出てくるかどうか、くらいで。
三番目にすら出てこないことも多いですよね。だからこそ私としては、昔の庭園ほどメンテナンスは大変じゃなく、でもちゃんと四季を感じられる、ちょうどいい庭や外構をご提案したいなと思っていて。
「家に着せる衣服の仕立屋さん」ですもんね。でも、そう仰る中島さんのモチベーションは何なのでしょう。どうして庭や外構にそこまでこだわるんですか?
そうですねぇ。先ほどもちょっと出しましたが、住む方に四季を感じてもらいたいんですよ。例えばアルミのカーポートって、確かに丈夫だしメンテナンスもラクなんです。でも、そこで人はいちいち足を止めないでしょう?
そうでしょうねえ。いつもの風景ですし、一年通じて別段変化もないし。
そうなんです。でも、帰ってきた時にお庭がちらっと見えて、お花が咲いていたらね、やっぱり人ってちょっと見に行くんです。「ああ、咲いたなあ」って、少しの時間かもしれないけど、足を止めて。
ははぁ、なるほど。人間、そういうちょっとホッとする時間が大切ですもんね。中島さんとしては、庭や外構がそういうキッカケになったらいいと。
そういうことなんです。「五感を使った生活」とよく言うんですけど。庭って、見て、嗅いで、触って、ということができる場所なんですよね。鈴虫の鳴き声を聞いたり、野菜を育てて食べたりとか。
確かにコンクリづくりの駐車場だけでは、そういう豊かな時間は得られない気がします。
安田さんも仰るように、僕はそういうことが人にとって何より大事だと思っているんです。かといって、昔の庭園みたいにメンテナンスが大変だと、その存在がむしろ負担になってしまうでしょう?
ああ、確かに。豊かな時間どころか、嫌な時間になっちゃうと(笑)。だから、風情を大事にしつつも、メンテナンスの楽さにもこだわると。
はい、そういう「ちょうどいいバランス」の庭や外構を作れたらいいなあと。
これまでの施工事例を見ると、そういう中島さんの想いが、すごく感じられます。ホームページにたくさん載っているので、読者の皆さんにもぜひ見てもらいたいですね。
ありがとうございます。伝わったらすごく嬉しいなあ。
対談している二人
中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役
高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。