第259回「新卒一括採用の裏側」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第258回「外資化する日本の大企業」

 第259回「新卒一括採用の裏側」 


安田

リクルートが学生向けイベントで、質疑応答にサクラを使っていたそうです。

石塚

そうみたいですね。

安田

社員が学生のフリをして質問していたらしくて。

石塚

オンライン就活セミナーって、なかなか質問が出ないから。

安田

石塚さんはこの件についてどう感じますか?

石塚

正直に言って「ニュースになるほど大きな問題なんだろうか?」と思うのが半分。

安田

残りの半分は?

石塚

「いまだに新卒採用にこだわっている会社がこんなに多いのか」と。

安田

まだまだ多いですよ。新卒メディアを運営している会社は儲かってます。

石塚

セミナーで質問も出ない、サクラを入れて盛り上げなきゃいけないぐらい、レベルが低い。なぜそんな母集団にこだわっているのか不思議。

安田

新卒の定着率も落ちてますしね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

それにしても、なぜこのコンプラ時代に学生のフリなんてしちゃうのか。

石塚

それは単純ですよ。リクルートとしては、「これだけ質のいい母集団を集めてます」ってことをアピールしたいから。

安田

なるほど。そっちなんですね。学生を盛り上げたいわけじゃなく、企業に対して「こんないい質問をする学生がいますよ」ということを見せたい。

石塚

この前、社員同士のSNSが暴露されたじゃないですか。

安田

リクルートの?

石塚

はい。あれは酷かったですよ。

安田

どんな内容ですか?

石塚

「いやー、お疲れさまでした安田さん」「動物園のあいつら、うまく手なずけてますね」みたいな。

安田

なんと。

石塚

学生を見下した会話を運営会社の営業同士がやってるわけですよ。

安田

そんなのが暴露されたんですか!大変ですね。

石塚

たぶん身内がリークしたんでしょう。

安田

表に出るはずがない情報ですもんね。

石塚

採用業者は企業しか見てないってことです。

安田

学生は単なる商品ってことですか。

石塚

そう。だから商品クオリティが良いことを企業にアピールしなきゃいけない。「これだけ質問が出て活発なセミナーでした」と宣伝したいわけです。

安田

学生も減ってるし「新卒が欲しい」という会社もこんなにあるわけじゃないですか。そこまでしなくても。

石塚

業者同士の競争がありますから。参入障壁もめちゃくちゃ低いし。居酒屋並みですよ。

安田

そんなに低いですか(笑)

石塚

だって僕と安田さんが組めばすぐに出来ちゃうじゃないですか。

安田

リクナビ・マイナビ並みに学生を集めるのは難しいです。

石塚

あんなに大量に集める必要はない。新卒がとれなくて困ってる会社は山ほどあるわけで。そこに参入するのに設備装置なんて要らないわけですよ。

安田

2〜3人採用するだけなら要らないでしょうね。でも新卒を採用する会社って大々的にやりたいんですよ。大量に集めて説明会がしたい。

石塚

だから大手ナビ会社の思う壺になってしまうんです。大手が囲い込んだ学生なんて採りに行こうとするから無茶苦茶な予算がかかる。

安田

会社説明会に学生がたくさん来るって社長は嬉しいんですよ。

石塚

ナビ会社に踊らされてるだけなのに。

安田

「こんなにたくさんの学生が会社説明会に来てくれました」って、嬉しそうにFacebookに投稿してるじゃないですか。

石塚

「集まりゃいい。集まれば満足」みたいなのが未だにある。

安田

昔はそれがいい採用に直結していたわけです。

石塚

昔はね。

安田

「新卒に人気のある会社」というブランドも手に入る。

石塚

新卒の人気を上げるのって簡単じゃないですか。心理的安全性だの働きやすさだのを強くアピールして。学生に好まれやすいようなマーケティングをして。

安田

働いた経験がないですからね。いい会社ではなく「良さそうな会社」を選ぶから。

石塚

だから入ってすぐ辞めちゃうんですよ。

安田

石塚さんから見ると新卒全体の質は下がってきてるんですか。

石塚

二極化してますね。レベルの高い学生は10年前20年前より多い。それは事実です。

安田

レベルの高い学生は就職活動なんてしないんでしょうか。

石塚

いや。すると思います。すでに起業してる学生でも就職する人は多いです。

安田

やっぱり安定志向なんでしょうか。

石塚

たぶん利用してるんだと思います。そんな人材がずっと企業にいるわけないじゃないですか。

安田

辞める前提で入るってことですか。

石塚

独立後の準備でしょうね。

安田

わざわざ会社に入って準備するんですか。

石塚

大手での勤務実績って結構役に立つんですよ。大企業がクライアントになることもあるわけじゃないですか。

安田

職務経歴を身につけるための就職ってことですか。

石塚

そう。あとは「大手の作法を身につけるのに2年ぐらい行っとこうか」という感じ。

安田

確かにそれは大きいですね。ルールを知らないと取引してもらえないし。

石塚

実際に大手との繋がりもできるし。そこには一定の価値がありますよ。

安田

採用する側には迷惑な話ですね。

石塚

大手はただ優秀な新卒を採りたいだけですから。

安田

だけど優秀な人材は独立前提なんでしょ?

石塚

本当に優秀な学生はどんどん起業しますね。

安田

人事担当者はそれを分かって採用してるんでしょうか。

石塚

分からないでしょう。これまでと同じように一括採用をやって優秀な層を選んでいるだけで。

安田

そもそも大企業は一括採用なんかやらなくてもいいのに。ピンポイントで集めた方がいい人材が採れますよ。

石塚

おっしゃる通り。ただ大手の人事ってみんなサラリーマンだから、自分の代でリスクを負いたくない。これまで通りがいちばん無難なんです。

安田

まだまだ新卒一括採用は続きそうですね。

石塚

続くんでしょうね。だからリクルートの社内で「動物園だ」とか言ってしまう人間が出てくるわけです。

安田

なぜ一括採用だとそういう人が出てくるんですか。

石塚

要するに彼らとしてみたら仕事がつまらないんですよ。ナビに登録した学生をイベントに集めて、盛り上げて。優秀な人材ほどやってられない。

安田

なるほど。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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