第37回 「初任給30万円時代」の採用方法

この対談について

住宅業界(新築・リフォーム・不動産)の「課題何でも解決屋」として20年以上のキャリアを持つ株式会社ランリグが、その過程で出会った優秀な人材を他社に活用してもらう新サービス『その道のプロ』をスタートしました。2000名以上のスペシャリストと繋がる渡邉社長に、『その道のプロ』の活用方法を伺う対談企画。

第37回 「初任給30万円時代」の採用方法

安田
人手不足が深刻化する中で、大手を中心に初任給30万円時代が到来してますね。月給が上がっても辞める子は辞めるんでしょうけど、大手は優秀な人が10人中2人か3人残ってくれれば充分元が取れますからね。

渡邉

そうですね。一方、中小企業が初任給30万円も払ったら、定着率が3割あっても元が取れない気がしますね。そもそも新卒に30万円払う決断ができるのかなと。

安田

賃上げの必要は理解できても、簡単には決断できないでしょうね。というか、新卒採用をやっていない中小企業もまだまだ多い気がしますけど。


渡邉

ああ、それが最近はそうでもないんです。それほど規模の大きくない企業でも新卒採用をやるようになってますよ。

安田
へぇ、そうなんですか?

渡邉
ええ。というか、新卒をやる以外に選択肢がない、と言ったほうがいいかもしれない。特にリフォーム会社や工務店では、中途では人が確保できないと聞きます。
安田
ああ、なるほど。要するに経験者採用ができないから、ポテンシャル採用で新卒を入れるしかないと。ちなみに新卒組の定着率はどうなんですか?

渡邉
まぁ、やっぱりなかなか厳しいですよね。5年で3割残ればいい方じゃないですか?
安田
なるほど、厳しいですね。しかも新卒ってプロ野球でいえば2軍みたいなものじゃないですか。どんなに早くても2〜3年は先行投資が必要で、さらに言えばそうやって丁寧に育てても全員が戦力になるわけじゃない。

渡邉
仰るとおりです。社員側の目線で見れば、「給料をもらいながらビジネスを身に着けられる」お得な立場なわけで。そういう意味では会社と対等じゃないんですよね。
安田
そうそう。だから会社としては、できるだけ多くの人に、できるだけ長く働いてもらわないと元が取れない。投資した分が回収できないわけだから。渡邉さんの感覚だと、10人採用して何人が残れば元が取れそうですかね。

渡邉
そうですね。5年働いてくれる人が7割ぐらいいないと元が取れないと思います。
安田
7割か……つまり「5年で3割残ればいい方」だというのが現実なら、まったく元が取れてないということですよね。さらにここに、冒頭話していた「賃上げ」が乗っかってくる。初任給が30万円となると、その分残業代や社会保険も全部上がるわけで、7割残っても厳しいかもしれませんよね。
渡邉

仰るとおりです。かといって賃上げを渋っていると、退職による人材流出が止められなくなる。新卒で採用して、3年じっくり育ててあげた。一通り仕事を覚えて、やっと戦力になりそうだ。そんなタイミングで、「競合の方が月給が高いんで転職します」と言われてしまうわけですよ。

安田
しんどい話ですね(笑)。しかも最近の若い方は、あまり罪悪感もなく転職されますもんね。昔はそういうの、「裏切り者」みたいに見られる雰囲気があったじゃないですか。

渡邉
そうですね。「育てるだけ育ててもらっておいて」ってやつですね。確かに今は「そういう考えは古い」と言われそうです。
安田

そうそう。会社をいくつも渡り歩いて、新しいスキルや実績をどんどん積んでいくのが当たり前というか。……そう考えると、中途採用がダメだから新卒採用で、という考えも危なくないですか? 採用はできても、戦力になる前に辞められる可能性が低くないわけで。


渡邉
まぁそうなんですが、中途ではそもそも採用自体が難しいので、背に腹は代えられないということでしょうね。それに、シンプルな商材を扱う会社なら、戦力化までの時間も短くてすみますから。何とかサイクルが回っていくんじゃないですかね。
安田

ははぁ、なるほど。シンプルな商材と言うと、例えばどんなものですか?


渡邉
建設業界で言えば、「住宅設備の取り替え」などは比較的シンプルです。逆に、コンセプトから考えて提案するリノベーション系だと、相応の教育が必要ですから、戦力化までは時間がかかる。
安田

なるほど。確かに、たとえば半年程度で戦力化できるビジネスなら、早いタイミングで給料以上を稼いでもらうことも可能かもしれません。……でも社員目線で考えると、あまりに簡単な仕事だと、成長実感を感じられないんじゃないですかね。そしてつまらなくなって辞めてしまう。

渡邉
そうなんですよねぇ。短期間でマスターできる仕事ほど、飽きやすいんですよね。そこをどう解決するか、というのも大きな課題で。
安田

う〜ん、なんだか八方塞がりな感じですね(笑)。それでいうと、最近私は「社員の有期雇用」がいいんじゃないかと思っているんですよ。


渡邉
えっ、社員なのに期間を決めてしまうんですか?
安田

ええ。だって、先ほどの話でも出たように、社員側はそもそも「この会社で一生頑張ろう」なんて思ってないんです。だったら最初から「◯年間でこんなスキルを身に着けて、次のステップに進んでください」と言っちゃったほうがいい気がして。


渡邉

ははぁ、なるほど。確かに今の子にはすごく刺さりそうです。

安田

ええ。もうそういう時代なんだと思いますよ。大谷選手がメジャー最初の球団として選んだのも「給料はそこまで高くないし優勝も狙えないけど、二刀流は全力で応援する」というエンゼルスでしたし。


渡邉
ああ、そうでしたね。そこで二刀流を完成させて、ドジャースに1000億円で売りに行ったわけですもんね。見事なキャリアステップですよね。
安田

ええ、本当に。だから例えば5年とか、最初にある程度の期間を設定しておいて、「市場価値が上がるような教育をする代わりに、この期間は続けてね」という話をすればいいんじゃないかと思うんです。


渡邉

なるほど。そういう手法を取り入れられれば、ビジネス界の大谷選手のような、優秀な新卒を採用できるかもしれないと(笑)。まぁ、それは難しいとしても、間違いなく採用率は上がるでしょうね。

安田

ええ、そう思います。もちろん会社側も約束を守らないといけないので、「新卒で入社したら5年後にはステップアップできている」という仕組みを作っておかないといけませんけどね。


対談している二人

渡邉 昇一(わたなべ しょういち)
株式会社ランリグ 代表取締役

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1975年、大阪市に生まれる。大学卒業後、採用コンサルティング会社ワイキューブに入社。同社の営業、マーケティングのマネージャー、社長室長及び、福岡などの支店立上げを担当し、同社の売上40億達成に貢献した。29歳の年に株式会社ラン・リグを設立し、今期20期目。述べ900社以上の住宅会社のマーケティング、人材コンサルティング支援と並行し、500店舗以上が加盟するボランタリーチェーン「センリョク」など、VC、FC構築にも多数携わる。また、自身が司会を務め、住宅業界の経営者をゲストに招き送る自社のラジオ番組は、6年間で、延べ300回以上の配信を経て、毎月2万人以上の業界関係者が視聴する番組に成長した。今年5月には、2000人以上のプロ人材とのネットワークを生かした~社長の右腕派遣サービス~【その道のプロ】を本格リリース。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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