辞める理由・辞めない理由

辞める理由があるから社員は辞める。辞める理由がなくなれば社員は辞めなくなる。こう考えている経営者は多い。だから給料を増やし、休みも増やし、パワハラ発言には気をつけ、辞める理由をなくそうとする。だが残念ながら社員の離職は止まらない。それは発想がズレているからである。

辞める理由を減らしていくことは確かに重要だ。給料や休みを増やすことも、ハラスメントを減らしていくことも、間違いなく社員の離職防止につながる。だがそれだけでは離職を止めることはできない。なぜならそこには「辞めない理由」という発想がないからである。

「なぜ辞めるんだ?」と社員を問い詰める経営者は、離婚問題ですれ違う夫婦とよく似ている。片方は「離婚する理由がない」と主張し、もう片方は「一緒にいる理由がない」と主張する。どちらも間違っていないし、どちらも正しい。根っこの価値観が最初からズレているのである。

浮気をしない、ちゃんと生活費を入れる、家事や子育てにも協力的。いったい自分のどこに不満があるのだと言いたくなる。だが相手が求めているのはそこではない。ちゃんと私を見てくれること。一緒にいることで大きな充実感を得られること。求めるものが違うのだからすれ違うのは当たり前だ。

人を雇う経営者は、働く人の価値観が変わったことを認識しなくてはならない。浮気をせず、ちゃんと生活費を稼いでくれば妻は満足してくれる。もはやそういう時代ではないのである。もちろん浮気や金遣いの荒さは離婚の原因になる。給料が安く、休みが少なく、ハラスメントが横行する会社から社員がいなくなるのと同じだ。辞める理由をなくすことは必要条件であるが離職を防ぐための十分条件とは言えないのである。

そもそも会社には原資というものがある。夫の稼ぐ能力と同様に限界がある。報酬や休みを増やし続けることなど出来ないし、贅沢な生活を妻に約束することもできない。だからこそ価値観の一致が重要なのである。贅沢は出来ないけれど、この人といるとすごく幸せだ。めちゃくちゃ給料が高いわけではないけれど、ここで働く自分はとても幸せだ。そう感じてもらうための努力が必要なのだ。

まずは相手をしっかり見ること。これが何よりも大事。なぜなら幸せの基準は人によって違うから。「この人にとっての幸せは何なのか」を考え続けること。それが経営者のいちばん大切な役割なのである。

 

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