第228回 AI時代の接客業を考える

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

今からちょうど4年前。
コロナによる営業自粛が始まり、「オンライン飲み会」という形式が流行りました。

そんな飲み会のスタイルも一つの選択肢としては残ったものの、多くの人がリアルな会食に戻ってきているのを感じています。

でも、安心したのも束の間。
今度は一過性のブームでは終わりそうもない、AIという大きな波が接客業にも迫ってきているように感じるのです。

私は今、毎日AIの力を借りて仕事をしています。
とは言っても、まだAIチャットを使って分からないことを教えてもらったり、文章のチェックをしてもらう程度で、深く使い込んでいる人に比べたらまだまだと言えます。

でも、そんなレベルの私でさえこのAIというものの便利さは分かりますし、人が便利なものに流れてきたことを考えれば、この流れが加速していく一方なのは間違いないのでしょう。

そして、こうした便利なAIを日々使っていて思うのです。
「こんなに的確な回答ができるのなら、接客に人間は必要ないんじゃないか」と。

事実、例えばウイスキーの2つの銘柄の味わいを比較してもらっても分かりやすい言葉で説明してくれますし、特定のお酒に合う料理などもすぐに教えてくれます。記憶力に限界のある人間が知識を増やし続けるのは現実的ではないでしょうし、そもそも知識の量でAIに勝とうとすること自体が無理なのだろうと感じます。

そう考えるのであれば、商品の説明や提案はもはやリアルなスタッフがやる必要などなく、AIに任せて人件費を削減していくことが正しい方向のようにも思えます。

ただ一方で、即座に的確な回答をしてくれるAIとチャットをしているにも関わらず、常に私自身の中に何か物足りなさを感じることがあるのも事実であり、この物足りなさの原因が何なのかと考えてみると、それは「AIの回答は全て実体験を伴っていない」ということなのです。

確かにウイスキーやカクテルの味わいも説明できるし、お酒と食事の組み合わせも提案してくれます。でもそれは見方を変えれば、単なる情報のまとめでしかなく、実体験を伴った言葉ではないため会話の相手としては楽しくないのです。

逆に考えるならば、会話の楽しさとはこうした「実体験から生まれる個々人の感じ方、考え方の違い」にこそあり、ここに強みを持てるのが実際に商品を自分で考え、試作し、売るという経験を繰り返してきた小規模経営のお店なのではないでしょうか。

もちろん大手のようにAIの活用による効率化を進めることで利益を確保する方法も間違ってはいないのでしょう。

でも、自分で商品を考えて、作って、売るという経験から生まれた商品に対する思いを言語にできるのが小規模経営の強みであるならば、私たちが進むべきなのは、AIが代行できるような情報をまとめただけの接客ではなく、今まで以上に多くの実体験を積み重ね、自分のお店でしか話せない商品に対する思いをお客さんに伝えていく接客ではないかと思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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