第127回 厳しい戦いと楽しい商い

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

「飲食業で生き残れるのは1割」と言われます。
私はこの事実を起業した後に知り、不安を感じたことを覚えています。

「1割に入るためには他店との厳しい競争を勝ち抜かなければいけない。」
「本当にそんな厳しい競争の中で生き残れるのだろうか?」と。

つまり私は、長く商売を続けることができている1割のお店とは、競合との厳しい戦いを勝ち抜いたお店であり、戦いに負けたお店が9割になると考えたのです。

でも、今から振り返って考えると、この考え方は間違っていたと感じます。
なぜなら、商売が上手くいってるオーナーさん達を見ていると、競合と戦っているようには全く見えないからです。


私が商売上手なオーナーさんを見て感じること。
それは、お店が繁盛しているのは競合との戦いに勝ったからではなく、むしろ競合と戦うこと自体に全く興味を持たず、自分がお客さんに提供できる価値を追求することに没頭できているからではないか、ということ。

これは言ってみれば、他店との「厳しい戦い」よりも、自分なりの「楽しい商い」をした結果、お店が繁盛していると言えます。

一方で、開業した当初の私はどうだったのかと考えてみると、こうしたオーナーさん達とは異なり、他店の動向ばかりをみて自分のお店づくりを考えてしまっていたように思います。

事実、他店を意識していたからこそ、自ら価格競争に飛び込んでしまったのであり、結果的にはその競争を意識するあまり、本来自分が商売を通じて提供したかった価値そのものすら忘れてしまっていた訳です。

こうした事実から考えると、「飲食業で生き残るのは1割」というのは事実であっても、その1割とは他店と競争をした結果として生き残った1割という事ではなく、自分のお店の商品価値を高めることに集中し、競争自体をしなかったお店こそが生き残る1割になれるという事ではないでしょうか。

逆に考えるならば、開業時の私のように、周りと競争することばかりに目を奪われ、自らの商品価値を高める努力を忘れてしまう事こそが廃業する9割に近づく要因だということ。

生き残るのは「厳しい戦い」をしたお店ではなく「楽しい商い」をしたお店。

もちろん、競争の中で生き残る道もあるのかも知れません。
ただ、少なくとも私の知るオーナーさん達に限って考えるのであれば、後者の選択をすることで商売を楽しみながら続けることができているように見えるのであり、私自身もこの事実に気づき、競合を意識せずに自分の商売へ集中するようになった結果、現在も店舗商売を続けることができているように感じるのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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