第148回 顧客との距離感

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

起業してから半年くらいが経った頃のことだと思います。
私のお店にも少しずつ常連さんと呼べるような顧客が増えてきました。

自分の商売に常連さんができる。

この事実が当時の私にとって大きな喜びだったことは間違いありません。
ただそんな喜びと同時に、ある不安が私の頭をよぎる様になったことも事実なのです。

「この常連さんたちを絶対に失いたくない」と。


常連さんは定期的にお店を使ってくれる、ありがたい存在。

私自身、こうした常連さんのありがたみを感じていたからこそ、絶対に失いたくないと思ったのであり、絶対に失いたくないからこそ、常連さんにとって替えのきかない存在になろうと考えたのです。

今でも私は商売において、この「替えのきかない存在になる」という考え方が間違っているとは思いません。

でも、今から当時の自分を振り返って思うのは、一言で「替えのきかない存在になる」とは言ってもその取り組みは様々であり、取り組む内容によっては替えがきかないどころか、その関係自体を終わらせてしまう可能性もあるということ。

常連さんを失いたくなかった当時の私は、常連さんにとって替えのきかない存在になるために、できる限り心の距離を近づけようと努力しました。

この取り組みは短期で見れば上手くいっているようにも見えましたし、事実、常連さんの来店頻度が上がったことで売上も伸びていったのです。


そんな取り組みから約半年。
結果的に私のお店はほとんどの顧客を失うこととなってしまいました。

原因は常連さんとの距離感があまりに近づきすぎてしまった結果、お店と顧客の間にあるはずの緊張感が失われ、お互いの関係に甘えや依存が生まれてしまったからです。

では、当時の私が顧客にとって替えのきかない存在になるためにやるべきこととは何だったのかと考えてみると、それは「心の距離を近づける努力」ではなく、「より魅力的な商品を提供し続ける努力」だったのだと思うのです。

顧客と長く関係を続けるためには緊張を保てる適度な距離感が必要であり、顧客に近づけば近づくほど長く関係を続けられる訳ではないということ。そして、お店と顧客とは商売における関係性である以上、力を注ぐべきなのは商品の改善であるということ。

そう考えるのであれば、顧客を失いたくない一心で心の距離を近づけようとした瞬間から関係の終わりは始まっていたのかも知れず、魅力的な商品を提供する努力よりも、結果的に相手に依存するような努力を続けてしまった私が顧客を失ったのは当然だったと言えるのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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