第232回 価格で選ばせているのは誰?

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

「お客さんは安い商品しか頼んでくれない」
開業してしばらくの間、私は本気でこう考えていました。

ビールやカクテル、ウイスキー。
各ジャンルに数種類から数十種類の商品を用意しているにも関わらず、注文してもらえる商品はそのジャンルの中で一番安い商品ばかり。

でも、今から振り返ってみるとつくづく思うのです。
「お客さんに安い商品を頼ませていたのは自分自身だった」と。


商売を始めてからしばらく経って気が付いたこと。
それは「お客さんは楽しそうな商品であれば頼んでくれる」という事実。

つまり、開業当初の私のお店が安い商品ばかりを注文されていたのは、お客さんが楽しさを感じる工夫や、いつもと違う商品を頼みたくなるようなワクワク感がお店に足りていなかったということ。

それは当時のメニューにもよく表れています。
(↓メニューの一部抜粋)

私はこんなメニューを出して「290円のビールしかお客さんが頼んでくれない」と嘆いていた訳ですが、いま見返すとある程度ビールの知識がある人を除けばビールの違いが分かりませんし、この中で当時一番お客さんに認知度が高かった商品が290円のビールだったことを考えれば、むしろその他のビールを注文したくなる理由がない訳です。

そして当時の私と同じように、その商品がどんな体験を提供できるのかを言語化していないがために、お客さんに対して楽しい体験やワクワク感を提供する機会を失ってしまっているお店は意外と多いのではないでしょうか?

お客さんは安い商品ばかりを頼みたいのではなく、楽しそうな商品がないから安さで選んでいただけだったということ。

「お客さんは安い商品しか頼んでくれない」

私は本気でこう考えていましたが、お客さん視点に立って考えれば「このお店には頼んでみたくなる楽しそうな商品がない」と感じさせてしまっていた可能性は高く、だからこそ安い価格にも関わらず私のお店が繁盛しなかった一方で、私のお店よりも価格の高いお店が繁盛していたのだと今は思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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