第62回 「主役」を降りた後も「仕事」を続けるべき理由とは?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第62回 「主役」を降りた後も「仕事」を続けるべき理由とは?

安田
最近思うのが、社長でも政治家でも「世代交代」をうまくやれている人って意外と少ないな、と。後継者を指名して「引退」したと見せかけて、実は会長として会社に残ったり、筆頭株主として実権を握っていたり…。

鈴木
ああ、確かに。政治の世界でも、引退して表舞台から去った老議員が一番権力を持ってる、なんて言いますもんね(笑)。
安田
そうそう(笑)。だから「代表取締役が若い人になった」とか「総理大臣が交代した」って話も、本質的な意味での「世代交代」とは言えない気がして。

鈴木
あるあるですよね。「代表取締役は私ですけど、会長の印鑑がもらえないと決裁がおりないんです」みたいな話、ゴロゴロしてますから(笑)。
安田
笑。逆に言えば、「権力」の部分も含め渡さないと意味がないんですよ。つまり、「主役」が「脇役」にならないといけない。

鈴木
ほう。自分は脇役になって、次期社長を主役にする、と?
安田
そうそう。権力や決裁権などはすべて「主役」に渡して、自分は「脇役」になる。脇役は主役をコントロールしようとしてはいけないんです。

鈴木
なるほどなるほど。すごく腑に落ちる例えですね!
安田
でも実際のところ、「脇役」になることを受け入れられない人が大勢いる。本心では「いつか主役は降りなきゃならない」ってわかっていても、いざその時になると認められないんです。

鈴木
確かに、それまでずっと「主役」だった人が、何も感じず「脇役」に徹するのは難しいでしょうね。僕ももうすぐそういう時期がやってくるわけですけど…大丈夫かな(笑)。
安田
鈴木さんは大丈夫ですよ(笑)。ちなみに「主役を降りた」後の「脇役人生」はどういうものにしたいか、もう決めていらっしゃいますか?

鈴木
ええ、それはもう、この対談でも再三取り上げていただいている『相続不動産テラス』を、今まで以上に本腰入れてやっていくつもりです。
安田
なるほど。脇役人生でも「仕事」をやられるんですね。

鈴木
ええ、それはもちろん。僕としてはやっぱり仕事をし続けていくことは大事にしていきたいですから。
安田
私も全く同じです。私はよく「生涯現役で社長をやり続けます」という方に、「そんなことを言わず、早く若い人と交代すればいいのに」って言うんです。でも必ず「安田さんだってずっと働いているじゃないですか」って反論されるんですよ(笑)。

鈴木

ああ…でも、そうじゃないんだよなぁ…(笑)。

安田
そうなんですよ(笑)。「組織のトップにいること」と「仕事をし続けること」は、全然別の話なんです。

鈴木
そうですよねぇ。「組織のトップにいること=権力の座に居続けること」なわけで。前回の話で言うところの「ギラギラ人生」ですよ。
安田
ええ。一方で「働き続ける」というのは、「生きがい」や「ライフワーク」といったニュアンスに近いのかなと。たぶん日本人の気質として、人の役に立てている実感がある方が「イキイキ人生」が送りやすいんだと思います。もちろん金銭的な意味でも、仕事があったほうが安定しますしね。

鈴木
わかります。欧米人なんかが言う「40歳でリタイアした後は、豪華客船で世界一周をするぞ!」みたいなのは、日本人ではあんまりイメージできませんもんね(笑)。
安田
ええ。実際、定年退職された方が、社会との接点をなくして鬱状態になったりするじゃないですか。そう考えると、ある程度の年齢になったら、自分で副業とかフリーランスを始めておくべきなのかもしれないですね。

鈴木
ああ、「主役の引退後」を見据えた準備というわけですね。
安田
そうそう。鈴木さんもご葬儀の仕事をやりながらも、1人でできる不動産ビジネスを始められているじゃないですか。すごくイキイキと楽しそうにやられているので、素晴らしいなと思いますよ!

鈴木
ありがとうございます。確かに僕は社員に「得意を生かして人の役に立てれば、一番良いと思わない?」ってよく言うんですけど、それが要するに「仕事」なんですよね。そういう仕事を一生続けていけるかどうかが、「イキイキ人生」を送れるかのキーなのかもしれない。
安田
仰るとおりですよね。そしてそれを「組織内の立場」や「名誉」などではなく、自らの手で実現していく。…それこそが「脇役」として持つべき姿勢なのかもしれない。

鈴木
でもそれで言うと、安田さんは本当に理想的な「脇役」をされていると思います。自分の得意なことを活かした仕事をし続けられていて、かつ、ちゃんと収益も生まれているじゃないですか。
安田
そうですか? ありがとうございます(笑)。まあ私の場合は、半ば強制的に「脇役」にされてしまったところもありますが…(笑)。でも実は私、「自分が社長を引退する時には、持ち株はすべて会社に置いていく」と最初から決めていたんです。

鈴木
え、それは無償で?
安田
はい。1円ももらわずに社長の座を降りようと。そうすると自分には、社長の座も権力も株もお金も何も残りませんよね? そういう状態で「世代交代」をするつもりだったんです。

鈴木
へぇ〜、ずいぶん潔い引き際にしようとしていたんですね!
安田
結局、会社がなくなってしまったので実行できませんでしたけど(笑)。ただ、今でも時々考えるんです。あのまま会社が存続していて、それで社長を引退する時に、自分は本当にそれができたのかなって。

鈴木
うーん…それまで築き上げてきた「すべて」を捨てるようなものですもんね。人間は弱いので、自ら全部を捨て去るのはかなり難しいんじゃないかなぁ。僕自身も今まさに実感していますけど(笑)。
安田
笑。まあ私の場合は強制的にすべてを捨てるしかなかったんですけどね(笑)。人生って本当にうまくできていると思います(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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