第17回 「定額通い放題」ができる美容室

この対談について

「遊んでいるかのように働きたい」をモットーに、毎日アロハシャツ姿で働く“アロハ美容師”こと岩上巧さん。自身が経営するヘアサロン「mahaloco(マハロコ)」には、岩上さんしか実現できない<ココロオドル髪型>を求め多くのお客様が訪れます。その卓越したビジネスセンスの秘密に、ブランディングの専門家・安田佳生が迫る対談企画です。

第17回 「定額通い放題」ができる美容室

安田

岩上さんの美容室『マハロコ』には「パスポート制」と「チケット制」があるとお聞きしました。これはどういうものなんです?


岩上

定額で通い放題できたり、事前に購入した券を使って好きな施術を受けたり、というように使っていただける制度です。

安田

なるほど。まず「パスポート制」から伺っていきたいんですが、これはいつ頃、どういった経緯で始められたんですか?


岩上

お客様の髪の悩みに対して、もっと細かく、もっと日常的にフォローしていきたいなという想いがあって。それで2010年頃から始めました。「カットとかカラーを頼むほどではないけど、ちょっと整えてもらいたい」みたいなときってあるじゃないですか。

安田

ああ、襟足だけ揃えたいとか、もみあげをちょっと切ってとか。


岩上

そうそう。そういうちょっとしたことに毎回料金がかかるのって、ハードルが高いんですよね。なので最初は実験的に「1ヶ月2万円で通い放題」にしてみたんです。

安田

へぇ! でも、パーマやカラーもやり放題なんだったら、お客さん殺到したんじゃないですか?


岩上

はい、殺到しました(笑)。お店のお客様がほぼ全員参加してくださったので、300人くらいが通い放題(笑)。

安田

それはもう、お店がパンクしちゃうレベルですよ(笑)。


岩上

まあそれも込みで、いったんやってみようと。というのもこれはある種の「実験」で、僕としては2つのことを検証してみたかったんです。

安田

2つのこと?


岩上

ええ。まず1つ目は、「お客様がどういうタイミングで、どんな施術を受けたくて来店されるのか」ということ。2つ目は、「スタッフがお客様の来店周期をきちんとコントロールすることができるのか」ということです。

安田

ふむ。前者はわかりますが、後者はどういうことでしょう? お客さんのいいなりになってないか、ということですか?


岩上

そうですそうです。僕の意図はまさにそこ。つまりスタッフにお客様への「提案力」を身に着けてもらいたかったんです。例えばお客様が「カットで」とオーダーされても、あえて「カラーも挑戦しませんか?」とか「ここにパーマをかけるとセットが楽になりますよ」と言えるかどうか。

安田

「次はいつ頃、こういう施術をやりましょう」という提案までできるようになってもらいたい、ということですね。


岩上

仰るとおりです。ところが、いざこの通い放題プランをやってみたら、美容師たちは「お客様からの要望ばかりで疲れる」と、どんどん仕事が嫌になっていってしまって…。

安田

おっと、それは困りましたね。


岩上

それまではきっと「お客様のご要望に100%応える」ことこそが、美容師の仕事だと信じて疑っていなかったんですね。でもお客様からの要望がエスカレートしていくことで、だんだんと奴隷のようになってしまったわけです。

安田

なるほどなぁ。そのバランスを取るのは難しそうですね。


岩上

ええ。でも、嫌になったからこそ、「どうにか改善しよう」という気持ちが働くようになった。それで徐々に「次はこのメニューをやってみましょう」「次回はこれくらいの期間を空けてから来てください」とご提案できるようになってきて。で、それに応じてお客様にも変化が出始めた。要するに、「美容師の提案を受け入れてくれるお客様」だけが残っていったんです。

安田

ああ、なるほど。逆に言えば、「自分の思い通りにならないなら嫌だ」ってお客さんは来なくなったと。


岩上

そういうことです。まぁそんなこんなで、通い放題の期間をちょっとずつ延ばしてみたり、無料で利用可能なメニューを整理したりしながら、最終的に「半年で13万2000円」というパスポート制ができあがりまして。

安田

ははぁ、なるほど。ちなみにパスポート会員の方はどれくらいの頻度で来店されるんですか?


岩上

今はほとんどの方が1ヶ月に1回程度ですね。

安田

え、せっかく通い放題のパスポートなのに月1ですか? それじゃもったいない気がしますけど…(笑)。


岩上

なんて言ったらいいんでしょうか…。そもそもパスポートをご利用いただいているお客様は「金額的に得をしたい」というわけではなくて、「特別感」を味わいたい方が多いと思っていて。

安田

というと、パスポートを持っている人は、VIP待遇をしてもらえたりするんですか?


岩上

VIP待遇と言うか(笑)、パスポート会員は「新商品や新メニューをいち早く体験できる」という特典があるんです。

安田

ああ、なるほど。「オフィシャルホテルに泊まると、接するテーマパークに15分だけ早く入れる」なんていう特典があったりしますけど、つまりは「優越感」がくすぐられるんでしょうね(笑)。


岩上

まさにそうなんです。だからこのパスポート購入者の「年間消費額」は、施術や物販代込みで100万円を超えてくるんですよ。

安田

100万?! パスポート代が通年で30万弱だと考えると、残り70万以上をプラスアルファで支払ってくれているわけですか。すごすぎますね(笑)。ちなみにこれと「チケット制」はどう違うんですか?


岩上

チケットは事前に12枚券を6万6000円でご購入いただくシステムです。で、チケットがあればカットは無料。カット以外の施術についても、「チケット○枚」というシステムです。

安田

ふむふむ。皆さん、1回の施術で何枚くらい使われるんですか?


岩上

が担当するお客様は、だいたい1回の施術で8〜9枚ほどですかね。

安田

ちなみにそのチケットって1度購入したら誰が使ってもいいんですか? 例えば親子で分け合って使うとか。


岩上

もちろん問題ないですよ。中には「娘が頻繁に使っちゃうから、私はホームカラーしながら、カットとハウオリだけチケットを使うことにするわ」なんていうお母様もいらっしゃいますから(笑)。

安田
それは賢い使い方だ(笑)。「パスポート」ではVIP感を感じられ、「チケット」ではお得感を感じられる。で、どちらも結局は「通い続けたくなる」仕掛けがあるということがよくわかりました。

対談している二人

岩上 巧(いわかみ たくみ)
アロハ美容師/頭髪改善特許技術発明者/パーソナルブランディングプロデューサー/株式会社 OHANA 代表

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美容専門学校卒業後、都内のサロンに就職するも、オーナーと価値観の違いから大喧嘩し即クビに。出身地である水戸に戻り実家の美容室で勤務しながら技術を磨き、2008年自身のヘアサロン「mahaloco(マハロコ) 」をオープン。結婚式のプロデュースやイベント企画なども行うパーソナルブランディングプロデュースサロンとして人気を博す。2014 年、髪質改善技術「美髪矯正 hauoli®(2021 年特許取得)」を開発。「まるでハワイで暮らしているように」をテーマに、毎日アロハシャツを着、家族・仲間・お客様と共にハワイアンライフを満喫中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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