地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第22回 広島レモンを使ったお菓子が売れなかったワケ
以前の対談で「広島レモン」を使った焼き菓子が全然売れなかったと仰っていましたが、そもそもどんなお菓子だったのか教えていただけますか?
あれはもともと「広島レモン」を使ったお菓子を作りたかったんです。それで、ギュッとレモンが凝縮していて、まるでレモンをそのまま食べているようなお菓子を開発しまして。
ふむふむ。見た目はどんな感じだったんですか?
お饅頭のような形で、中身にはレモンの酸味と香りがしっかり感じられる餡が入っていました。それを『広島レモンマンジュ』というネーミングで売り出したんです。
まんじゅ? 饅頭ではなくて?
そうです。「マンジュ」って、フランス語で「食べる(mange)」という意味があるんですね。だから「饅頭」と「mange」を掛けて、「広島レモンをそのまま食べているかのようなお菓子」というコンセプトだったんですけど…売れませんでしたね〜(笑)。
笑。売上はどれくらいでした?
年間で1000万円くらいでした。
ほぅ、なかなかいい数字だと思いますけど、スギタさんとしてはそうは思わなかったと?
販売していたのが、JR広島駅・広島空港・おりづるタワー(原爆ドームの隣にある観光施設)の3ヶ所だったんですが、それら全て足して1000万円だったので…
「もう少し売れてもいいんじゃないの?」と思っていたわけですね(笑)。
そういうことです(笑)。あとはちょうどカフェ『ワンダーストーブ』を閉店するタイミングだったので、「今後は卸しにも力を入れていこうかな」という目論見もあったんですよ。年間3000万円くらい売れれば、新たな事業の柱の1つになるかもしれないぞ、と。
なるほどなるほど。ちなみにそういった卸販売だと、利益はどのくらいになるんですか? 売上の何%、みたいな感じですか?
いえ、商品は全部、買い取りになるんです。それに出店料もかからなくて。だから例えば広島駅で販売する場合、当時は約65%で卸していたので、そこから原価約30%を除いた30%程度が、そのままウチの利益になっていました。
ふーむ、なるほど。商品買取してもらえるのは低リスクでいいですけど、その分「ちゃんと売れる商品」でないと継続して仕入れてもらえなくなってしまうんですね。
そうなんですよ。しかも売れていない商品は、販売場所もどんどん僻地に追いやられていくんです(笑)。
あ〜それは書籍と一緒ですね(笑)。書籍も、売れ筋は平積みにして目立たせてくれるからよりたくさん売れる。でも売れなくなったらどんどん端に移動し、そのうち棚に1冊だけになって、見つけることすら困難になる、みたいな(笑)。
まさに「広島レモンマンジュ」も同じでした(笑)。最初はかなり目立つ場所に置いてくれて、「新商品!スタッフおすすめ!」みたいなポップもつけてもらっていたんですけどねぇ。最後の方は、自分でわざわざ売り場に探しに行ってましたよ(笑)。
「今日はどこで売ってるんだ?」って?(笑)
そうそう(笑)。だんだん一生懸命探さないと見つからなくなってきて。知り合いにも「出張の手土産に買っていこうとしたのに、見つからんかったよ」って言われることも多かったですね(笑)。
それはせつないですね(笑)。ちなみに「広島レモンマンジュ」が想定よりも売れなかった敗因は何だったんでしょうか?
コンセプトに問題があったと思っています。僕としては「広島レモンをそのまま食べる」って面白いと思ったんですけど、駅や空港でお土産を探している方の心には全然フィットしなかったんだなと。
でも「広島レモン」という広島の特産品を使っているんだから、県外の人への手土産にはピッタリな気がしますけど…。
実は「広島レモンといえばこの商品」というような、かなりのシェアを取っている商品がすでにあるんですよね。僕らはそこに挑むには、ちょっと覚悟が甘かったんだろうなと思っています。
なるほどなぁ。ちなみに「広島レモン」を使ったお菓子、というのは卸先から指定されていたんですか?
いえいえ、自分たちで選びました。広島レモンを使ったケーキはいろいろあるけど、もっとちゃんと「レモン」を感じられる商品を作ろうじゃないか、と。…結果的には失敗しちゃいましたが(笑)。
笑。じゃあもし次があれば、レモンじゃないものでチャレンジしたいですか?
そうですね、狙ってます(笑)。というか「広島レモンマンジュ」を開発したときから、「マンジュ」でシリーズ展開をしようと思っていたんですよ。
へぇ、面白いですね(笑)。「広島レモン」に次ぐ第二弾は、何のテーマでいこうとしたんですか?
豚まんです。
え、豚まん?(笑)
実は『スギタベーカリー』の冬の人気商品に「豚まん」があって。それをアレンジしながら瀬戸もみじ豚を使った「ぶたマンジュ」っていうのをやりたいなと考えていました。
へぇ〜、それはぜひやってほしいですね!(笑) 「レモンマンジュ」と「ぶたマンジュ」がセットで売られていたら、面白いかもしれない。
ですよね? 僕も、駅や空港でその2つが並んで売られていたら最高じゃん! って思っていたんですけど、いかんせん、レモンマンジュでコケてしまったので…(笑)。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。