第15回「人を値切ると、自分も値切られる」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第15回「人を値切ると、自分も値切られる」

安田

東南アジアに旅行した人は、口を揃えて「日本は遅れてる」って言うじゃないですか。

久野

「もう、最先端ではない」というのは、私も実感しています。

安田

先進国の中では、日本だけがどんどん給料が下がってますもんね。

久野

それが実態ですね。

安田

でも、いまだに「先進国気分」の日本人って多いですよね?

久野

はい。早く目を覚ましたほうがいいです。

安田

韓国にも抜かれそうなのに、「国交断絶してしまえ」みたいに言う人いるじゃないですか。「韓国は、俺たち抜きじゃ食っていけない」みたいな。

久野

そう信じたいんでしょうね。

安田

本当は気がついてるんでしょうか?

久野

気がついてなきゃ、ちょっとおかしいです。

安田

「日本人の賃金は上がり続けてて、景気も良くなり続けてた」みたいな話でしたけど。

久野

じつは「一部の企業だけの抜粋だった」みたいな。

安田

あれは改ざんだったのでしょうか?

久野

コメントしづらいです(笑)

安田

肌感覚として「給料上がってるはずないよ」って、みんな分かってたと思うんですよ。

久野

そういう感覚はあったでしょうね。

安田

じゃあ、やっぱり改ざんがあった?

久野

改ざんはしてないってことになってますんで(笑)。ただ、良くなってる実感を持ってる人は少ないですよね、現実的に。

安田

じゃあ、改ざんじゃなくて、忖度ですか?

久野

食い込んできますね(笑)

安田

だって毎年、調査対象を変えて「収入が増えているように」見せてたんですよ。改ざんなのか、忖度なのか、はっきりしていただきたいです。

久野

やっぱり現政府としては、都合が悪い部分はありますよね。減ってるっていうのは。

安田

ぶっちゃけどうなんですか。日本人の所得は増えてるんですか?それとも減ってるんですか?

久野

中小企業に関していえば、減ってるというより「増やせてない」という感じですね。

安田

じゃあ、減ってはいないと。

久野

いや、物価はなんだかんだ上がってるので、相対的には減ってますね。

安田

日本人の99パーセントは中小企業で働いているわけですから、賃金は「下がってる」と言ってもいいですよね。

久野

そう思います。

安田

周りの国は、上がってるイメージですけど。

久野

日本以外の国が上がっていくことは、もう間違いないですね。

安田

じゃあ、日本だけですか。

久野

日本は、貧乏になってきてる。それは間違いないです。海外に行って一番感じるのは、思ってたより高いってこと。

安田

物価が高いってことですか?

久野

はい。上海なんかで外食しても、すごい安いかって言ったら、そんなことはない。

安田

そうですよね。思ったほど安くないですよね。

久野

安くないです。

安田

なんだったら、日本のほうが安かったりしますよね。

久野

日本は安いですね。

安田

給料上がらないのは誰の責任なんですか。政治家ですか?それとも経営者ですか?

久野

「日本は安くてサービスもいい」みたいなイメージって、あるじゃないですか。

安田

ありますよね。

久野

そういう文化とか「おもてなし」みたいなところも、あだとなってる気がします。

安田

「サービスはタダ」っていう感覚がありますもんね。日本には。

久野

海外に行くと、すごくそれを感じます。人が動いた瞬間にチップ払わされるし。

安田

ですよね。サービスはすべて有料。

久野

アメリカのホテルなんてチップ置いとかなかったら、ちょっと雑に掃除されてたりする。

安田

私も経験あります。

久野

基本的に海外って、お客の側が「ありがとう」って言う感じですよね。

安田

お金払って「サンキュー」って言う文化ですからね。「サービスは金がかかる」っていうのを、顧客側もしっかり理解してる。

久野

欧米だけじゃなく、東南アジアなんかでもみんなそうですよ。

安田

日本のお客さんって、大して金払ってないのに要望が強いイメージですよね。

久野

そうですね。スマイル0円みたいな。

安田

だから、コンビニで大声出して怒鳴ったりするんですよ。土下座させたりとか。

久野

店長が出てきて謝ったりしますからね。

安田

叩き出せばいいんですよ。そんな客は。

久野

ホントですよね。コンビニでそんな要望すんなよって感じ。

安田

「高級ホテルに行ってやってくれ」って思います。

久野

巡りめぐって、自分に返って来るんですけどね。

安田

ですよね。みんな顧客であると同時に、労働者でもあるわけですから。

久野

そうなんですよ。お互いに足を引っ張りあってるような感じ。

安田

料金についてもそうですよね。自分がサービスに金を払わなければ、自分のサービスにも払ってもらえない。

久野

日本って、サービスを求めすぎなんですよ。今のままだと完全に悪循環ですね。

安田

IKEAなんて、姿勢が明確ですもんね。

久野

そうですね。丁寧に説明してくれる人もいないし、自分で組み立てるのが大前提ですから。

安田

気に入らないなら「来てくれなくて結構」っていう姿勢が、明確じゃないですか。

久野

だからこそ、その分安くなってるわけで。

安田

ですよね。そのへんを割り切れないのが、日本文化なんでしょうか?

久野

それを「日本のいいところ」だと、勘違いしてる。

安田

もう結果が出てますもんね。

久野

はい。ビジネスにおいては完全に「悪しき文化」となってます。

安田

日本人って、ソフトにお金を出したがらないですよね。

久野

あと、見えないものにお金を払わない。

安田

お互いが値切りあって、今があるわけじゃないですか。

久野

そうなんですよ。これを逆転させないといけない。

安田

じゃあ、お互いに値上げし合って、きちんと払い合って。

久野

優秀な経営者の人って、元々そういう感じなんですよね。

安田

値切らないってことですか?

久野

何でもかんでも値切らないし、逆に合わない仕事はきちんと断る。

安田

それ、大事ですよね。

久野

僕らの仕事って、仕入れとかないじゃないですか。

安田

人件費はかかりますけどね。

久野

そこを理解してくれる人は少ないです。

安田

値切られるってことですか?

久野

「これぐらいはやっとけ」と思ってますね。「ちょちょっと変えるだけでしょ」みたいな。

安田

そういう場合はどうするんですか?

久野

ちゃんと請求するか、合わない仕事は断ります。

安田

そこで断れないと、どんどん安くなっていきますよね。

久野

はい。どんどん安くなって、どんどん疲弊していきます。

安田

どっちが先なんですかね?値切る人と、それを受けてしまう人。

久野

値切る人じゃないですか。

安田

値切ることをやめれば、自分も値切られなくなると。

久野

そういうことです。これだけ中小企業が低迷してるのは、そういう考え方がまだ残っているから。

安田

他人の仕事に対するリスペクトがないってことですね。

久野

自分もやってるんだから、お前らも「おもてなししろ」みたいな。おもてなしの悪循環です。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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