第285回 採用してはいけない会社

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第285回「採用してはいけない会社」


安田

「辞めるなら120万円払え」という会社があるそうです。辞めにくくすることで人材を縛りつけるという。いわゆるブラック企業の典型ですね。

久野

今は退職代行があるので、そういう囲い込みはもう無理です。

安田

ですよね。退職代行業者に頼まれたら会社としても止めようがない。

久野

ただ代行会社には弁護士以外の人がどんどん参入していて。中には悪質業者もあるみたいです。

安田

おいしい仕事ですからね。手紙1枚書いて終わり。揉めた場合は交渉までしてくれるんでしょうか。

久野

やらないでしょう。そこまでは。

安田

だったら弁護士である必要もないし。今後も増えていきそうですね。

久野

ある程度の数までは増えるでしょうけど。サービスの質や料金で何社かに絞られるんじゃないですか。

安田

なるほど。増え過ぎたら価格競争になるので。そんなにおいしい仕事ではなくなると。

久野

なくなることはないと思いますが、どこかで新規参入は減っていくでしょう。

安田

先ほどのような「脅して辞めなくする」会社も減っていくでしょうね。入社してみたら勤務条件が違うとか。昔は普通にあったみたいですけど。

久野

よくありました。でもなくなっていくと思います。そんなことをしてもすぐ辞にめちゃうので。

安田

約束を守る会社が増えていくってことですよね。素晴らしいことです。

久野

そうですね。

安田

「辞めたい」という人を引き止めるのも難しくなるでしょうね。もう気持ちよく送り出すしかないのかも。

久野

辞めたい理由にもよると思います。入社前に労働条件をしっかり話して、それを入社後にちゃんと守ること。当たり前のことなんですけど。

安田

そうですよね。

久野

そういった基本的なことがまだ守られていないので。

安田

この期に及んでまだそんな会社があるんですね。

久野

安田さんが考えているより時間がかかると思います。

安田

そういう会社が存在する限りは退職代行も無くならないでしょうね。

久野

はい。

安田

「採ってしまえば何とかなる」と思っている会社がまだまだ多いってことですね。マイナスポイントは言わず入ってから我慢させる。

久野

入れてしまえば「気合いで乗り越えられるだろう」「愛があれば大丈夫だ」みたいな。

安田

無茶苦茶な理論ですね(笑)どこが愛なんですか。

久野

自分たちはデメリットじゃないと思ってるから。気づいてないというか。

安田

気づいてない?

久野

その組織にずっといると強烈な違和感でも慣れてくるんですよ。「言っとかなきゃいけないんじゃないの?」ってことを言えなくなる。

安田

「こういう人には合ってます」「こういう人には合いません」って正直に言えばいいだけだと思うんですけど。

久野

その境目が分からなくなるんですよ。社労士に客観的なアドバイスをもらった方がいいと思います。

安田

分からないですか?自分のことなのに。

久野

わかんないと思います。そこが自分たちの問題だと思っていないので。だから退職理由を理解できない。理解できてたら多分やめてないと思う。

安田

なるほど。

久野

分かっていたらそもそも雇ってないし。自分のことはわかんないんだと思いますよ。わかんないで済ましちゃいけないけど。

安田

分かって隠してるんじゃないですか?雇うために。

久野

いや、雇う前に抜けてもらった方がいいんですよ。経営者としたら。

安田

そうなんですかね。

久野

そう思います。本当は3人に1人ぐらい抜けるぐらい言わなきゃいけない。

安田

採用力のある会社はそれでいいでしょうけど。それをやると1人も残らないという会社もありますよ。

久野

そこが根本的な問題なんでしょうね。そもそも採用力がないのに採用しちゃいけないですよ。

安田

その通りなんですけど。そういう会社が採用するからブラックになっていくわけです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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