第74回 人材確保に困らない会社になる秘訣

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第74回 人材確保に困らない会社になる秘訣

安田
前回の対談では、中小企業で深刻化している「人不足」を解消するためには、商品の付加価値を上げて、値上げをして、給料を増やしていくしか方法がないんじゃないかというお話をしました。

鈴木
そうですね。僕の経営者仲間も「値上げをどうするか」と「人材不足」に悩んでいる人が多いですもん。
安田
そうでしょうね。一方で、人材確保に全く困っていない中小企業もあるじゃないですか。実際『のうひ葬祭』さんも、葬儀業界の中では採用に困っていない方ですよね?

鈴木
おかげさまで。逆に人材がだぶついている面もあるかもしれない(笑)。
安田
あ、そこまでですか(笑)。すごいなぁ。のうひ葬祭さんのように「人材確保に困っていない会社」と「人手不足の会社」って何が違うんでしょうか?

鈴木
うーん…「給与面以外の魅力」をちゃんと伝えられているかどうかなんじゃないかなぁ。
安田
ほぅ、それは例えば、職場環境とかってことですか?

鈴木
そうですね。「こういう人たちとなら一緒に働きたい」と思ってもらえるかどうかが、すごく大事だと思うので。退職する人のほとんどが「人間関係に不満がある」って理由で辞めていくじゃないですか。給料面を不満に思って辞めていく人って、イメージほど多くないんじゃないかな。
安田
いや〜、そんなこともないですよ? 最近の子は「転職したら給料が上がるから」という理由でバンバン辞めていきますから。

鈴木
ああ、なるほどなぁ。でもそれって、給与だけの理由じゃない気もしますけどね。本当は人間関係とかが理由なんだけど、「転職したら給与が上がるから!」と言っておけばなんだか前向きに聞こえるじゃないですか。
安田
あぁ、確かにそういう考え方もあるかもしれません。だからこそ鈴木さんの会社では、人間関係も含めた社風とか、組織の価値観みたいなものの発信を積極的に行うわけですね。

鈴木
そうそう。結果、社風とか一緒に働く仲間に共感してくれる人だけが入社してくることになるので、定着率も高くなる。
安田
なるほどなぁ。とはいえ、労働条件だって発信しないわけにはいかないでしょう? どれだけ社風がよくたって、いくらもらえるかわからない会社に応募なんてできないわけで(笑)。

鈴木
まぁそうなんですけど、給与なんかの条件面は、最後の最後にようやく言う感じですよ(笑)。ウチでは明確に、社風や一緒に働く仲間の方を強く発信していますね。
安田
でもそうか、だから「給与が理由で入社してくる人」が入ってこないわけですね。つまり、将来的に給与を理由に辞める人も出づらいと。

鈴木

そうそう。もちろんあまりに条件が悪ければ誰も来てくれませんから、そのあたりはバランスを取りつつやってますけどね。僕らのやっている事業は、人がいないと成り立たないので。

安田
確かにそうですよね。売上をあげるには葬儀を少しでも多く行う必要があって、そのためにはより多くの人材を確保しなければならない。つまりいわゆる労働集約型のビジネスなわけで。

鈴木
そうなんです。そういう意味でも採用はものすごく大事なので、かなり考えながらやってます。…まぁ、僕が別でやっている『相続不動産テラス』のようなビジネスは、葬儀のように人手がそんなにいらないので、また別なんですけど。
安田
そうかそうか。不動産ビジネスは、鈴木さんがほぼ1人でやられているわけですもんね。

鈴木
ええ。それに葬儀業ってフロービジネス(売り切り型のビジネス)なので、売上予測も立てづらいんですよ。人はたくさん必要だし、予測も立てづらい。そんな難しいビジネスなので、もう少し安定的に収益を上げていける事業をやりたいと思っていて。だから不動産ビジネスを始めました。
安田
なるほど。ちなみに鈴木さんは以前の対談で、葬儀の金額も少しずつ値上げもされていると仰っていましたが、「値上げできる中小企業」と「値上げできない中小企業の差」って何だと思われます?

鈴木
それはズバリ、社長が決断できるかどうか、でしょ(笑)。
安田
あ、それだけですか(笑)。

鈴木
ええ(笑)。もちろん業種によっては値上げしづらい会社もあると思いますよ。例えば大企業の下請け会社だったら、値上げをしたら契約を切られてしまうかも…なんて心配になるでしょうしね。でも僕らみたいなBtoCは、社長が決断すればいいだけの話なんです。
安田
やっぱりそうなんですね。というのも実は広島でパン屋さんを経営されている方とも対談させていただいているんですが、その方も「年に1回必ず値上げする」と決めているって仰っていまして。

鈴木
へぇ、毎年値上げするんですか!
安田
そうなんですって。もちろん値上げに合わせて全ての商品を少しずつ作り替えていって、より付加価値の高い商品にするらしいんですけど。でも順番としてはまず、「値上げすることを決める」。それから商品の中身を考えていくという。

鈴木
ああ、それはすごく共感しますね。商品をより良くして、今まで以上の価値を提供できるということをわかってもらう。努力するとしたらそこですよね。努力して値上げしない、ではなく、値上げを納得してもらえるように努力するっていう。
安田
いやぁ、素晴らしいですね。ちなみに鈴木さんはいずれ社長を引退されることを決めていらっしゃいますが、置き土産として葬儀の値段を今の1.5倍くらいまでに値上げさせる、なんてことも考えていたりするんですか?(笑)

鈴木
いやいや、さすがにそこまでは…(笑)。でも実は今、これまでのブランドに比べてちょっと安いブランドを作ったので、今後は両刀使いでやっていこうかなと考えています。
安田
へぇ、それは「安さメインのお客さん向け」のご葬儀ですか?

鈴木
そうですそうです。使える会場が限られたり、サービス内容もかなりシンプルなんですが、お客様の求めるクオリティに合わせたサービス展開もしていかないと…と思ってやってみることにしました。
安田
なるほどなぁ。それにしても鈴木さんは、本当にいろいろなサービスや新事業を思いつきますよね。きっとそういうところに魅力を感じるから、優秀な人材も集まってくるんでしょうね。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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