第290回 人を安く使う時代の終焉

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第290回「人を安く使う時代の終焉」


安田

栃木県に那須ハイランドパークという遊園地があるんですけど。

久野

時給2500円で大量のバイトが集まったところですよね。

安田

それです。時給2500円のバイトってすごいですよね。キッチンカーでの販売、売店のくじ売り、ビールの売り子、と書いてありますけど。

久野

通常1200円程度のアルバイトみたいですね。

安田

そうみたいです。人が来ないから2500円で募集したら10人の枠に100人が応募してきて、今でも電話が鳴り続けているという。

久野

時給2500円で1日8時間、月21日働くと、42万円ですね。

安田

すごい。そこらの正社員よりずっと高いです。

久野

そこらの正社員が安すぎるんですよ。

安田

確かに。中小企業は「人不足じゃなくて時給不足だ」って言われてますもんね。

久野

その通りだと思いますよ。indeedに載せても給与が安かったらクリックすらされない。

安田

最低限の報酬があって、その次が仕事内容とかやりがいですよね。まずは金を出せって感じ。

久野

とくに地方の経営者の方は気をつけないといけないです。同業者の「うちはこれぐらいだ」って話を鵜呑みにして大企業の給与相場とか全く見てない。

安田

同地域や同業種との比較はもう意味がないですよね。

久野

意味ない。とくに20代なんてどこでも働けるわけですから。

安田

ですよね。なぜ業界内で比較しちゃうのか。

久野

見たくないものを見ないようにしてる人が多いってことです。

安田

もう目を瞑っちゃっていると。そうですよね。

久野

現実を見ないと無理ですよ。人を雇うなら給料を増やしていくしかないです。

安田

「人間にやらせた方が安い」という時代はもう終わりですか。

久野

まだ続いている現場もあります。だけどもうちょっとで終わるでしょうね。

安田

そういう発想の経営者がまだいるってことですよね。

久野

この前AI活用セミナーをやったんですけど。「AI使ってますか?」って聞いたら100人中2人しか使ってなくて。これはまずいなと思いました。

安田

孫さん曰く、AIはこの4年間で1000倍賢くなっているらしいです。アメリカの医学部の試験に合格するレベル。それがあと4年でさらに1000倍賢くなるそうです。

久野

AIが使えないと金魚と人間くらいの差になるって言ってましたね。

安田

言ってました。金魚が人間相手に商売してるみたいになっちゃうそうです。

久野

しかもたった4年後ですからね。恐ろしい。

安田

それが現実なら対応していくしかないですよ。

久野

そうなんですよね。

安田

人を雇うなら社員の給料も増やしていく覚悟をしないと。

久野

実際ここまで時給を上げたら人が来るってことですから。いい事例だと思います。

安田

飲食店や建築業でも報酬を増やせば人が集まるってことですよね。

久野

思い切って上げれば集まると思います。少なくとも上げないと来ないことは確かです。

安田

たくさん集まった中からいい人材を選んで付加価値に変える。これしかないですよね。

久野

付加価値に変えて値上げしていくしかない。

安田

人件費を抑えて安売りするモデルはもう無理だと。

久野

もう無理でしょうね。人を集める段階でめちゃくちゃお金がかかるから。

安田

今まで囲い込んできた人材で何とか耐えてるんでしょうね。

久野

大体どこの会社もそうですけど、今いる人たちの方が安いですから。これがバレたら今いる人が抜けていくでしょうね。その時点で終わり。

安田

中小企業の現場って「そんなに給料安いの!」って人がいますよね。

久野

そうなんですよ。仕事を教わってる後輩のほうが高かったりして。

安田

やってられないでしょうね。

久野

しかも長時間労働で責任まで負わされて。どこかで限界が来て破綻しますよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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