さよなら採用ビジネス 第19回「仕事のための仕事」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい 第18回「なぜ優秀な銀行マンは辞めないのか」


安田

銀行員で副業する人は今のところいないし、この先もたぶん副業なんか絶対許さないだろうってことでしたよね。

石塚

はい。かなり閉じられた業界なので。クローズドなまま、いくでしょうね。

安田

逆に大手の中でも、副業する人が増えていきそうな業界ってありますか?

石塚

う〜ん。どうでしょう。

安田

やっぱり「副業なんかする暇があったら、ここで出世するぞ!」という人が大半ですか?

石塚

新卒純血度が高い会社は、ある年齢までの出世欲はみんなものすごく高いです。

安田

それは業界に限らず?

石塚

商社にしても、生損保にしても、メーカーにしても、いわゆる新卒の人気企業ランキングに挙がるような会社は、非常に出世意欲は高いと思います。

安田

それは、どうしてだと思いますか?

石塚

やっぱり快適なんでしょうね。大学の同級生と比べても、みんな年収高いじゃないですか。住宅ローンなんか組むと、銀行が揉み手して「もっと借りられますよ」みたいなことも言ってくる。

安田

今までは確かにそうでしたけど、明らかに変わりつつありますよね。

石塚

はい。劇的に変わりつつあります。

安田

とはいえ、まだまだ大企業志向は衰えない?

石塚

20代と付き合ってて感じるのは、我々の頃以上に企業銘柄志向が強く、資格取得にもすごく熱心。中学や高校も有名大学附属出身者が多い。

安田

それは、なぜだと思いますか?

石塚

安心したいんじゃないですかね。有名大学にエスカレーター式で入れて、銘柄企業に入るにも有利だから。

安田

でも、それって銘柄企業に入れば人生安泰だったから、よかったわけですよね。

石塚

もはや、そうではありませんけどね。

安田

ですよね。たしかに、エスカレーターでいい大学に入れて、銘柄企業にも入れるかもしれないけど、途中でそのエスカレーターは終わってたりするじゃないですか。

石塚

はい。エスカレーターは40歳くらいで、もう完全に止まってますね。

安田

そこまで考えていないということですか?

石塚

親御さんも同じような企業に勤めてるケースが多いのだと思います。

安田

なるほど。

石塚

そういうお父さんは「いや、安田さんが言うことはわかるんだけど、俺は違う。俺は最後まで全うできる」と心底思ってるし、思いたいんじゃないですかね。

安田

昔の国鉄の職員みたいな。

石塚

(笑)

安田

どんなに赤字になっても、給料高くても「俺たちは国鉄だ」「他とは違うんだ」と言っていた人たちが、ある日突然「国鉄じゃなくなりました」みたいな。

石塚

全く同じパターンですね。

安田

実際そういう例は、いっぱい周りにあるわけじゃないですか。

石塚

周りを見渡せばそんな会社ばかりですよ。

安田

ですよね。純血・単一職種の、たとえば銀行なんかは、そもそも会社として10年後20年後に生き残っていけるんですか?

石塚

難しいでしょうね。

安田

これから外資の銀行とも渡り合っていく?

石塚

無理だと思います。

安田

そうですよね。

石塚

某メガバンクが「オフィスを一新するから、みなさん見に来てください」って見学会をやったそうなんですよ。

安田

オフィス見学会?

石塚

はい。それで、その見学会行くと、未だにパソコンからケーブルが出てるんですって(笑)

安田

つまり、固定パソコン。

石塚

それ見た人は「ああ、日本は金融で永遠に勝てないな」って。今みんなモバイル、タブレットの時代なのに、席固定してLANケーブル出してる時点でもう終わってるなと。

安田

そういえば、ある知り合いが教えてくれたんですけど。

石塚

はい、なんでしょう?

安田

最近バズったニュースで「経団連の会長のお部屋にパソコンが登場した」というのがあったそうで。

石塚

いまさらですか?

安田

はい。それで「経団連の会長はメールで仕事の指示出してる。さすが!若い!」みたいな。

石塚

もう終わってますね(笑)

安田

経団連とか、日本を引っ張ってきた巨大企業ほど、遅れてる感じがしますね。

石塚

実際、大きくて実績がある会社ほど、愛社精神や帰属意識がめちゃくちゃ高くて、「うちだけは違う」って信じ込んでますね。

安田

でも実際は、40歳を目安に、ほとんどの社員をリリースしたい。それが大企業の本音だと言ってましたよね?

石塚

はい。それが本音ですね。

安田

その本音は、中にいる人にもわかると思うんですけど。

石塚

いやぁ、わかんないでしょうね。

安田

わかんないですか?

石塚

わかんないと思いますよ。

安田

見ないようにしてるってことですか?

石塚

あまりに規模が大きすぎて「この仕事が、いったい誰のための仕事なのか」がわからないんですよ。

安田

誰のための仕事かが、わからない?

石塚

はい。つまり、全体を把握している人が、ほとんどいないんですよ。大企業には。

安田

現場の人には全体像が見えないってことですよね?

石塚

全体どころじゃないですね。目の前の仕事しか見えない。まさに「仕事のために仕事をやってる」という感じ。

安田

なるほど。自分がどの位置にいるのかもわからないと。

石塚

安田さんだったら、1日で音が上がりますよ。

安田

上がりますかね?

石塚

「この会議、いったい何のためにやってるのかわからない」という状態でも、安田課長は前の日から根回しに奔走しなくちゃいけない。

安田

絶対に無理ですね。私だったら「何のための会議ですか?」って、まず部長に聞きますね。

石塚

そこに疑問を感じるような人は、大企業では続かないですよ。

安田

実は私も、大企業に対する憧れみたいなものが、少しはあったんですよ。

石塚

ほう、それは意外ですね。

安田

今は、中小企業の仕事しかやってないんですけどね。

石塚

そんなイメージですよね。

安田

かつて一度、大きな会社から「面白い提案してくれ」って言われて、持っていったことがあるんですよ。

石塚

そんなことがあったんですか。

安田

はい。その提案の場に5~6人の役職者が出てきたんですけど。何でこんなに出てくるんだって不思議でした。

石塚

まあ、よくある話ですよね。

安田

それで2時間ぐらいプレゼンして、「いやあ~素晴らしい企画ですね」って皆さん言うわけですよ。

石塚

良かったじゃないですか。

安田

いや、ぜんぜん良くないんです。「いい企画だけど、うちの社内は通せないかもなあ」って言うんですよ。

石塚

(笑)それもまた大企業にありがちなパターンですね。

安田

つまり、そこに誰ひとり決裁できる人がいないんですよ。5人も6人も役職者がいるのに。

石塚

ありがち、ありがち(笑)。

安田

結構高い人件費だと思うんですけど、その人たち。一体、何のためにいるんだろうって思いましたね。

石塚

それが日常なんですよ。

安田

いやあ、さすがに大企業って余裕があるなあ、って思いました。それ以来、大きな会社の仕事はやってません。

石塚

安田さんには向いてないでしょうね(笑)。

安田

よくあれで会社がもちますね。

石塚

日本の大企業の場合、取締役も含めて上級職人材の人件費が、すごく安いんですよ。

安田

人件費が低いから、無駄なことをやってても大丈夫ってことですか?

石塚

これまでは。

安田

これからは厳しいでしょ?

石塚

はい、もちろん。

安田

でもそんな危機感なかったですよ。

石塚

20代からずっといると、それが当たり前になるんですよ。

安田

でも、社外の人との交流だってあるでしょ?

石塚

いや、ほとんど社内の人としかコミュニケーションしませんね。社外の人との接点ないんですよね、大企業って。

安田

そうなんですか?

石塚

接点あったとしても、グループ企業だったり。

安田

じゃあ、グループ全体で、徐々に徐々に崖に近づいているけど、全体が大きすぎて近づいてる自覚がないってことですか?

石塚

ないでしょうね。全体がとても大きいし、中にいる人は目の前の仕事をこなしているだけだから。

安田

この前、データ偽装の問題があったじゃないですか。納品した商品の半分がデータ偽装だったと。

石塚

ありましたね。

安田

半分ってものすごい莫大な量じゃないですか。あんなことになっても、現場の人はわからないんですか?

石塚

あれはもう典型で、同調圧力がかかっていて、一人一人は罪の意識がないんですよ。

安田

あれだけのことをやっても、罪の意識がない?

石塚

はい。全員で隠ぺいしてるんですけど、一人一人は隠蔽している意識がない。

安田

ちょっと信じられないですね。

石塚

たとえばカネボウの粉飾決算って、立件する上で、史上稀にみる難しさだったんですよ。

安田

史上稀に見る難しさ?

石塚

はい。検察が刑事告発に踏み切るうえで、何が難しいって、主犯が誰かはっきりしないんですよ。

安田

主犯が見つからなかったということですか?

石塚

いや、見つからなかったんじゃなくて、いないんですよ。

安田

いない?

石塚

はい。みんなが忖度しあって、絶妙の間合いによって粉飾が組み立てられていた。

安田

確かに、今回も社長出てきて謝ってましたけど、「指示したわけじゃなくて、気づいたら現場が忖度してやってた」って言ってましたね。あれ本当なんですか?

石塚

本当だと思います。みんな忘れてますけど、川重の問題だって同じですよ。

安田

恐ろしいことですね。

石塚

恐ろしいことですけど、私の肌感覚から言えば、ほとんどの大企業はそういう体質ですよ。

安田

石塚さんの肌感覚からいくと、勝手に忖度しちゃっている大企業って、何パーセントぐらいあると思います?

石塚

ほぼ全社じゃないですか。

安田

ほぼ全社?

石塚

はい。

安田

まだ表に出てないだけ?

石塚

出てないだけです。

安田

っていうことは、いつ出てもおかしくない?

石塚

おかしくない。

次回第20回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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