第72回 すべての庭がつながる「借景の町」

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第72回 すべての庭がつながる「借景の町」

安田

中島さんってよく借景のお話をされますよね。外の景色を自分の庭の景色の一部として借りるという。あれって逆もあり得るんじゃないかと考えたんです。つまり自分の家の庭が他の人にとっての景色になる、ということもあるのかなと。


中島

もちろんありますね。個人的にはそうなるのがお庭の理想的な姿だと思います。

安田

ああ! やっぱりそうですよね。お庭って自分の敷地内にあるのでもちろん自分のものなんですけど、もっと広く地域全体のものでもあるべきな気がして。


中島

同感です。以前、6棟分の分譲地ですべてのお庭を作ったことがありましたけど、まさに互いに借景になることで、素敵な景観が生まれていました。

安田

その案件はよく覚えています。お互いが借景になっていて、プラマイゼロどころか皆が豊かになっている。そういう素晴らしい場所がある一方で、「なるべく自分の庭は他の人に見せずに自分だけで楽しみたい」という人も多いじゃないですか(笑)。


中島

まぁ、確かに、それは否めない…かも(笑)。

安田

笑。まぁ実際、自分の家の庭の前で立ち止まって眺めている人がいたら、ちょっと不審な気がしちゃいますしね(笑)。でもよく考えてみたら、景色なんて減るものでもないじゃないですか。


中島

そうなんですよね。もちろんセキュリティへの配慮も大切なんですけど、「素敵なお庭だから、周りの人にも見せてあげたい」という人が増えれば、地域全体が楽しくなると思います。

安田

そうそう。大切に育てている木を見て、他の人が和んでくれたら嬉しいですし、周りの人から「素敵なお庭だね」って言われたら気分もいい。中島さんはその辺も狙ってお庭を作っているんじゃないかと思うんですが、どうですか?


中島

まさにその通りです。前を通る人がふと足を止めたり、通りを散歩したくなるようなお庭を作りたいなと常々思っています。

安田

ああ、やっぱり。それってすごく素敵だと思うんですよ。日本ってこんなに人口密度の高い暮らしをしているんですから、少しくらい「お互いのためのお庭」を作ってもいいのにって思うんですよ。


中島

本当ですね。そうすることで地域の子どもたちの感性が磨かれたり、心が豊かになっていく。そんな未来を目指したいです。

安田

そうそう。皆いい大人なんだから、他人のために庭づくりをしてもいいんじゃないかと思うんですよ。素敵なお庭だったら、皆が見れてお互いに心が豊かになっていった方がいいじゃないかって。


中島

本当にそう思います。そういえば以前、ライトアップすることで建物に木の影が映るデザインのお庭を作らせていただいたんです。ご本人は「夜に家に帰るたびにほっとするんだよ」と喜んでくださったんですが、その後、ご近所の方にも喜んでいただけているんだという話を聞いて、すごく嬉しかったんですよね。

安田

ははぁ、素晴らしいですね。自分だけじゃなく地域の人達も、毎日帰るたびに「いい景色だなぁ」と感じられるわけですね。


中島

そうなんです。そういうお話を聞くと、「将来的には20棟くらいがお互いに借景になるような地区を作れたらいいなぁ」なんて思いますね

安田

いや〜、20棟といわず町全体を作ってほしいくらいですよ(笑)。町のすべての家が借景になっている特区があったら最高でしょうね。


中島

いいですね〜。ただ現実的な話をすると、まだまだ法律的に難しい部分があって、6棟くらいが限界のようなんです。少しずつでも広げていけたらいいなと思いますけれど。

安田

確かに町全体を変えるとなると、行政から変えていかないと難しいでしょうね。でもトップが変われば思い切った改革もできますから。例えば「今までにない素敵な街づくりをします!」という市長さんが出てくれば、一気に実現することも可能だと思いますよ。

中島

ああ、なるほど。行政こそ変化することが難しいイメージでしたけど、最近はそうでもないのかもしれませんね。

安田

そうですよ。実際にトップが変わってすごく変化した地域もありますから。

中島

そうですよね。うん、世の中がそういう方向に進んでいってくれたら本当に嬉しいです。いつか本当に、すべての家が借景になっている町を作れたら最高ですね。

安田

応援しています! 中島さんの作る街並み、すごく楽しみです。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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