第303回 アニメ業界に見る日本型経営の限界

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第303回「アニメ業界に見る日本型経営の限界」


安田

日本のアニメが労働搾取と言われておりまして。

久野

はい。このままじゃまずいと思います。

安田

アニメ技術者は報酬が安くて、中国に行くと3倍ぐらいの年収が稼げるそうです。

久野

国連は労働搾取にすごく厳しいんです。netflixとか、ああいうグローバルメディアで配信させてもらえなくなる可能性があって。

安田

作品を作っても配信できないと回収できない。これどうなるんですかね。

久野

日本アニメが死にますよ。もっと給料を上げられる仕組みを作らないと。

安田

アニメ制作は下請け構造がすごいみたいです。末端のところは報酬が激安で、上に対して何も言えない。アニメがヒットして儲かったとしても、下までは回ってこないっていう。

久野

そういう構造も変えていかないといけないですよ。

安田

最低賃金を下回るような金額で労働時間もすごく長い。世界的にはこういう働き方が許されないみたいです。

久野

「労働搾取事業の商品は買わない」っていうのが世界スタンダードです。日本の下請け文化というか、これは業界全体の問題だと思うんですけど。

安田

アニメに限らず日本は下請け構造がすごいですよね。何層にもなっていて下に行くほど儲からなくて。

久野

今は下請けであって直接売り込むことができる時代じゃないですか。

安田

そうなってきてますね。アニメでも可能なんでしょうか。

久野

例えばnetflixに直接売り込むとか。SNSで発信して有名になるアニメが出てくるかもしれない。ちょうどいい転換点なのかなと思います。

安田

これだけ人件費が安いと、日本でアニメを作る外資も出てくるんじゃないですか。

久野

それはもうすでに出て来てます。中国はそのやり方でめちゃくちゃ強くなってます。製造業も含めて日本の人材をガンガン高い値段で雇って。

安田

外資系メーカーの工場が増えてますよね。外資はシビアだと言われますけど給料は圧倒的に高い。

久野

地方にIKEAやAmazonの倉庫が出来ると人件費が一気に跳ね上がります。

安田

外資の方が待遇がいいって悲しい現実ですね。

久野

外資系企業はダイナミズムに稼ぐ力があるので。

安田

アニメ会社も外資系になっていくかもしれませんね。その方が末端の報酬はぐっと上がっていくという。皮肉なことですが。

久野

それはもう経営能力の差なので。エンタメで儲ける仕組み作りは海外に勝てないですよ。

安田

同じ作品でも海外資本の方がより多くの利益を出していく?

久野

はい。そこが商売が上手ってことですね。売り先とか、交渉力とか、デジタルを使った生産性アップとか。これからAIも使っていくでしょうし。

安田

野球でもメジャーリーグは商売上手ですもんね。年収も10倍くらい差があって。

久野

アメリカでドジャースの戦略を聞きましたけど、すごいですよ。

安田

外野の看板を出すだけで何十億とかかかるらしいですね。

久野

そうなんです。マーケティングにもめちゃくちゃデータを活用してるし。アニメにしても、丹精込めて作った作品を「誰がいちばん高く売ってくれるか」ですよ。

安田

日本人は作る方に集中したほうがいいのかも。儲ける方は外資にやってもらって。

久野

現実そうなっていってますね。その方がみんな潤うっていう。

安田

悲しいけど、それが現実ですよね。

久野

やっぱり日本からAmazonは生まれないわけじゃないですか。

安田

アニメに限らず、あらゆる分野でそうなっていくんでしょうね。きっと。

久野

ウィニーも逮捕されちゃいましたから。動画のファイル共有ソフトみたいなやつ。

安田

そうでしたね。

久野

色々問題もあったとは思うんですけど。どうしても革命的なやり方とか、革新的なことをやると潰されちゃう。

安田

上が潰しにかかりますもんね。業界のしきたりとか、慣習とか、上下関係とか。

久野

たぶん日本人ではこの構造を変えられないと思います。

安田

日本人の収入を上げようと思ったら、経営トップを外資に変えていくしかないと。外資ってドライなイメージですけど、やった人にはちゃんと払うし平等ですよね。

久野

分かりやすいですよ。サボってもお金がもらえる仕組みなんて絶対変ですから。転換点かなと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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