国民民主党がこだわっている106万円の壁ですが。撤廃されるとどうなるんですか?
これ複雑なんですよ。そもそも51人以上社員がいないと106万の壁が存在しないんです。
とはいえ50人以下の会社もいずれ義務化されるんですよね?
はい。国民総社会保険時代になっていくと思います。
「扶養の範囲を外れないように働く」ということが問題ではないんですか?
ややこしいんですが今進んでいる議論は二つありまして。税金の扶養は引き上げましょうと。その代わり社会保険は引き下げて、みんなで払うようにしましょうと。
税金はかからない代わりに社会保険料はかかると。
社会保険は確実に入った上でってことですね。
社会保険に入らなくてもよかった人が「入らなくちゃいけなくなる」ということですよね。
そうです。
それだと逆に負担増になりませんか?
負担と考えりゃ負担でしょうね。15%ぐらいは増えますから。
手取りが15%減るって大きいですよ。
住民税は10%ぐらいですからね。
なぜ皆さん社会保険についてはあまり言わないんですか。
社会保険に関しては非常に疎いですね。
会社が払っている分も合わせると凄い負担額なのに。
会社負担分も合わせると2倍ですからね。
低所得の人については「会社に全額負担させよう」なんて話もあるし。
全額というか、割合を決めてもいいよという話ですね。
会社としたら社会保険料もひっくるめての人件費なわけですよ。
それはそうですね。
結局は人件費の中から払っているわけです。本来なら給料に反映されていたかもしれない。
日本の社会保険は税に近いと思うんですよ。世代間扶養じゃないから。
積立方式でもないし。いっそのこと税金にしてしまえば分かりやすいのに。
社会保険料が平均15%くらいなので会社負担分と合わせると30%。これが所得税に上乗せされたら凄い金額になってしまいます。
でも実際それだけ払っているわけで。手取り状況はかなり悲惨ですよ。
だから106万の壁を無くしてもっと稼ごうってことじゃないですか。
106万円の壁がなくなったらもっと働くようになるんでしょうか。
壁なんて関係なく働くようになると思います。物価がどんどん上がってきたら「扶養控除が使える」とか「扶養手当がもらえる」とかを超越しちゃう。働かないとお金がない。
旦那の扶養ごときではもう食べていけないと。
そういうことですね。「もう社会保険も入っちゃってるから働くしかないんじゃないの」って話になると思う。とても200万円以下ではもう生きていけない。
つまり160万まで控除されたとしてもあんまり関係ない。どちらにしても働くようになると。
もう物価も上がって働かざるを得ない。おそらく社会保険の壁が一番大きかったと思うんです。
やっぱり税金よりもそっちですか。
はい。だけどそれが先に取っ払らわれちゃったら、もうあんまり関係ない。
国民全員社会保険に必加入になったら、どんどん働くようになると。
働かないと家計が回らないので。パートさんも200万、300万は普通に稼ぐようになると思います。
そうなることが分かっていて「106万円の壁の攻防」をやってるわけですか?
「とりあえずやった」って感じを出したいんだと思います。
なんと。でも人不足で困っている企業にはいいニュースですよね。
いや、企業の命題は利益を出すことなので。基本的には人を減らしたいわけです。人件費は高くなるし、マネジメントのコストも大きいし、なるべく少ない人数でやりたい。
じゃあ働きたくても職場はどんどん減っていくってことですか。
企業もバカじゃないので進化が生まれるわけですよ。今って別に能力をつけなくても就職先があるわけじゃないですか。
この人不足ですからね。
いずれ画期的なイノベーションが起こると思います。付加価値を生み出せない現場から一気に人がいなくなる。
お金がない国民はどうやって食べていくんですか?
もうベーシックインカムしかないでしょうね。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。