この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
第306回「106万の壁撤廃で未来はどう変わる?」
安田
国民民主党がこだわっている106万円の壁ですが。撤廃されるとどうなるんですか?
久野
これ複雑なんですよ。そもそも51人以上社員がいないと106万の壁が存在しないんです。
安田
とはいえ50人以下の会社もいずれ義務化されるんですよね?
久野
安田
「扶養の範囲を外れないように働く」ということが問題ではないんですか?
久野
ややこしいんですが今進んでいる議論は二つありまして。税金の扶養は引き上げましょうと。その代わり社会保険は引き下げて、みんなで払うようにしましょうと。
安田
久野
安田
社会保険に入らなくてもよかった人が「入らなくちゃいけなくなる」ということですよね。
久野
安田
久野
負担と考えりゃ負担でしょうね。15%ぐらいは増えますから。
安田
久野
安田
なぜ皆さん社会保険についてはあまり言わないんですか。
久野
安田
久野
安田
低所得の人については「会社に全額負担させよう」なんて話もあるし。
久野
全額というか、割合を決めてもいいよという話ですね。
安田
会社としたら社会保険料もひっくるめての人件費なわけですよ。
久野
安田
結局は人件費の中から払っているわけです。本来なら給料に反映されていたかもしれない。
久野
日本の社会保険は税に近いと思うんですよ。世代間扶養じゃないから。
安田
積立方式でもないし。いっそのこと税金にしてしまえば分かりやすいのに。
久野
社会保険料が平均15%くらいなので会社負担分と合わせると30%。これが所得税に上乗せされたら凄い金額になってしまいます。
安田
でも実際それだけ払っているわけで。手取り状況はかなり悲惨ですよ。
久野
だから106万の壁を無くしてもっと稼ごうってことじゃないですか。
安田
106万円の壁がなくなったらもっと働くようになるんでしょうか。
久野
壁なんて関係なく働くようになると思います。物価がどんどん上がってきたら「扶養控除が使える」とか「扶養手当がもらえる」とかを超越しちゃう。働かないとお金がない。
安田
久野
そういうことですね。「もう社会保険も入っちゃってるから働くしかないんじゃないの」って話になると思う。とても200万円以下ではもう生きていけない。
安田
つまり160万まで控除されたとしてもあんまり関係ない。どちらにしても働くようになると。
久野
もう物価も上がって働かざるを得ない。おそらく社会保険の壁が一番大きかったと思うんです。
安田
久野
はい。だけどそれが先に取っ払らわれちゃったら、もうあんまり関係ない。
安田
国民全員社会保険に必加入になったら、どんどん働くようになると。
久野
働かないと家計が回らないので。パートさんも200万、300万は普通に稼ぐようになると思います。
安田
そうなることが分かっていて「106万円の壁の攻防」をやってるわけですか?
久野
「とりあえずやった」って感じを出したいんだと思います。
安田
なんと。でも人不足で困っている企業にはいいニュースですよね。
久野
いや、企業の命題は利益を出すことなので。基本的には人を減らしたいわけです。人件費は高くなるし、マネジメントのコストも大きいし、なるべく少ない人数でやりたい。
安田
じゃあ働きたくても職場はどんどん減っていくってことですか。
久野
企業もバカじゃないので進化が生まれるわけですよ。今って別に能力をつけなくても就職先があるわけじゃないですか。
安田
久野
いずれ画期的なイノベーションが起こると思います。付加価値を生み出せない現場から一気に人がいなくなる。
安田
久野
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安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。