第57回 「美味しそう」の裏に隠された大切なこと

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第57回 「美味しそう」の裏に隠された大切なこと

安田

先日東京駅ですごく美味しそうなフィナンシェを見かけたんですよ。バターを前面に押し出していて、箱も高級感たっぷりで。8個入りで3000円近くしたので、「これは間違いない」と思って家族へのお土産に買ったんです。


スギタ

それは期待しますね。お値段もなかなかですし。

安田

そうでしょう? パッケージには“フランス産のバター使用”と謳っていて、中にはバターのこだわりを語る冊子まで入っている。執事のような人がバターを差し出してるイラストまであって(笑)。


スギタ

演出が徹底してますね。実際、お味はどうだったんですか?

安田

それが、家に帰って原材料表示を見てみたら、一番目にマーガリンと書かれているのに気付いたんです。つまり最も多く使われているのがマーガリンという……


スギタ

えぇ! それはショックですね。

安田

そうなんです。もちろんバターも使ってはいるんでしょうけどね。味も美味しくないわけじゃないんですけど、なんだか物足りない感じがして。これなら近所のケーキ屋さんのフィナンシェの方がずっと美味しい。


スギタ

わざわざ買ったのにちょっと期待外れだったわけですね…。ともあれ、表示と実態が微妙に違うことって意外と多いんですよ。

安田

そうなんですか? 例えばどんなケースがあるんでしょう。


スギタ

純生クリーム使用」と書いておきながら実際はホイップクリームや植物油脂をブレンドしたコンパウンドクリームがメインだったり、「フランス産バター使用」と大きく書いてあるのに、ほんの少し混ぜてるだけで主原料は別だったり。

安田

う〜む。それって、知らなければ普通に信じちゃいますよね。


スギタ

特にお土産だと、細かく成分を確認せず買ってしまうこともありますからね。ある意味そこを狙ってるのかもなって思うと、ちょっと複雑ですね。

安田

私も「3000円もするんだから、まさかマーガリンを使ってるなんてことはないだろう」と思ってたんです。でもそのまさかだった(笑)。


スギタ

表示はルール通りでも、受け取り方とのギャップが大きいと、信頼を損ねかねませんよね。私もお菓子の開発に関わる立場として、こういう事例を見ると考えさせられます。やっぱり、ちゃんとしたものを作りたいなって。

安田

そうですよね。今はこういう話ってネットですぐに広まりますし。例えば、コストを下げるにしても、中身の材料じゃなく包装なんかで調整してくれたらと思いますよ。


スギタ

店名やパッケージで誤解を招かない工夫も必要ですよね。あまりにも“バター感”を前面に出しておいて、実態が違うとちょっと……。

安田

「それは店名です」なんて言われちゃったりしてね(笑)。言い訳としては苦しいですけど。

スギタ

まあ、法的にはセーフでも、感覚的にはアウトなケースってありますもんね。

安田

今度からは、お土産を買うときでも裏面の原材料表示を見るようにします。自衛策として。


スギタ

でも実際、気にしてない人のほうが多いのかもしれませんよ。バターの香りがすれば満足、みたいな。

安田

ああ、なるほど。確かにそうなのかもしれない。本物の味を知っていれば気づくんでしょうけど。

スギタ

「あんバター」と書いてあるのに実はマーガリンだったとか、「生クリームあんぱん」がホイップクリームだったりとか。そういうのも珍しくないですからね。

安田

うーん、でもそれが普通になってしまうのも寂しい話ですよね。

スギタ

だからこそ、「ちゃんと見て買う」っていう意識がこれからますます大事になるんだろうなと思います。買う側がちゃんとチェックするというか。

安田

仰るとおりですね。でもあのとき「これは100%バターですか?」って店員さんに聞いてみたら、どう答えてくれたんだろう……と今でもちょっと気になります(笑)。

スギタ

それはさすがに教えてくれるでしょうけど(笑)。確かに、いっそのこと聞いてみるのはありかもしれませんね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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