第142回 安さは善なのか悪なのか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第142回「安さは善なのか悪なのか」


安田

バターとか、マーガリンとか、コロナの影響で値上がりしてるみたいです。

久野

海外から入ってこなくなってる影響でしょうね。

安田

「給料は増えないのに、物価だけ上がって死にそうだ」ってネットに書かれてました。

久野

メディアがそうやって煽るから。

安田

「また値上げだ」みたいなニュースばっかりで。一方で「デフレで物価が上がらないから給料も増えない」とか。言ってることが矛盾してますよね。

久野

メディアはいつも矛盾だらけです。

安田

どっちが正しいんですか?値上げしたら庶民の生活がつらくなるのか、値上げしないからつらくなってるのか。

久野

私はやっぱり値上げすべきだと思いますね。

安田

値上げのたびに叩くメディアが問題だと。

久野

大問題じゃないですか。小さな話をいちいち。「10円上がります」とか。

安田

値上げの話は視聴率が取れるんでしょうね。

久野

炎上ネタは視聴率上がります。

安田

「俺たちに死ねって言うのか!」みたいな。値上げしないのが、回り回って自分の給料の安さに反映されてるのに。

久野

そうなんですよ。「安い物はいい」っていう個人の感覚が企業にまで浸透してる。

安田

企業は人の集まりですから。感情で動きますよね。

久野

「自分の生活は苦しいのに、おまえらのプロダクトはなんでこんなに高いんだ」みたいな。

安田

日本人は安いのが好きですよね。「となり町まで数円安い卵を買いに行く」とか。

久野

折込みチラシを端から端までチェックしたり。

安田

自分の時給をまったく計算してないですよ。労力を考えたら、ずいぶん高い気がするんですけど。

久野

やっぱり日本人の気質でしょうね。「安いニッポン」って本もありましたけど、安いのが好きなんでしょう。

安田

「物を大事にする」「もったいない」という感覚と関係あるんでしょうか。

久野

私は教育だと思います。「努力してコストを下げることが商売の基本」みたいなことを教え込まれるから。

安田

「無駄づかいはよくない」って子どもの頃から教えられます。

久野

だから日本人ってすごく貯金が多いんですよ。投資もせずにコツコツお金を貯めてる人が多い。

安田

お金を使わないから景気が悪くなって、収入が減って、さらにお金を使わずに貯金を増やすっていう。なに目的でやってるのかよくわからない。

久野

ですね(笑)

安田

そういう教育をしてるってことですか。国を挙げて。

久野

だって正直なところ、貯金してもお金は増えないじゃないですか。

安田

なんだったら減っていきますよね。

久野

そうそう(笑)

安田

銀行の手数料も高くなって。預けてるだけで減っていくみたいな。

久野

銀行だって商売ですから。それが当たり前だと思うんです。

安田

手数料を取られるのは海外では当たり前ですよね。

久野

投資なんていうものは一切教えないから。

安田

日本人にとっての投資ってギャンブルと同じ感覚ですよね。

久野

そういう感覚が染みついてます。

安田

「とにかく出費は抑えよう」と。

久野

本来は逆だと思うんです。仕事を依頼するときに1万円で依頼するのか10万円で依頼するのか。10万円もらえば安田さんも頑張ると思うんです。

安田

まあ気持ちは変わりますよね(笑)

久野

なのに「安田さんには100円でやってもらったほうがいいんだ」みたいな。

安田

100円だと頑張りようがないです。

久野

そりゃそうですよね。

安田

人によるでしょうけど。たくさん払ったらパフォーマンスを発揮してくれる人もいるし、安く発注した時と変わらない人もいるし。

久野

確かに。

安田

今はそういう仕事がどんどん増えてるんじゃないですか。ランサーズ的な。

久野

消費者として商品を選ぶ目が養われてない気がします。ランサーズとかで「同じ物だったら安い方がいいよね」って。実際買ってみるとぜんぜん違うんですけど。

安田

違いがわからなければ安い方を選びますよ。

久野

サービスを同じくくりで理解しちゃう人が多いんです。ネーミングという商品を頼むんだったら「できるだけ安い方がいいよね」って。短絡的に考えてる。

安田

なんでこうなっちゃったのか。

久野

やっぱりそう教育されてるからですよ。

安田

そこが不思議です。「お金をどんどん使おう」って教育したほうが、物価も上がっていいと思うんですけど。なんで国を挙げてそういう教育をしないのか。

久野

ものがない時代は放っておいても売れたから。今は必要なものを全部買っちゃって飽和状態になっちゃった。

安田

まじめにコツコツやるだけじゃ、もうダメだと。

久野

0から1の段階はそれが正しかったんです。経済ってどこかで成熟期を迎えるので。

安田

成熟期はどういう教育をしたらいいんですか。

久野

「工夫すると高く売れるんだ」という感覚を身に付けなくちゃいけない。人の工夫に対してお金を払うという感覚をもっと養わないと。

安田

シビアな割に資格や学歴には何百万も払いますよね。「その大学に何百万も払う価値があるのか?」ってことは考えない。

久野

資格や学歴は大好きです。それも教育なんでしょうね。

安田

どうして国は教育を変えないんでしょう。

久野

感覚がズレてる人がつくってるから。たとえば景気刺激策も間違ってますよね。

安田

どこが間違ってるんですか。

久野

戦後の復興期や高度経済成長期は、とりあえず道路をつくればそこに住宅が建って、人が集まって、物を買うという構造が成り立った。

安田

みんな家や家電を買い漁ってきましたよね。

久野

今はもう人間が変わっちゃったわけです。だけどいまだに「道路つくろうか」「鉄道走らせようか」みたいな。そういう施策になっちゃう。

安田

それが巡り巡って景気がよくなると思ってるんでしょうね。

久野

その感覚がもうズレてるんですよ。

安田

本来ならどういう経済対策をすべきなんでしょう。

久野

デジタルとかAmazonとか、ああいう企業を育てなきゃいけない。宇宙産業に投資するとか。

安田

普通に考えたらそうですよね。なぜ道路を作っちゃうんでしょう。

久野

票につながるからですよ。過去の成功体験が強烈すぎて8割ぐらいの人がそこから抜け出せていないから。

安田

国民がそれを望んでると。

久野

それで景気が良くなると信じたいんでしょうね。

安田

サービス業は伸びそうですけど。日本人が得意な「おもてなし」とか。

久野

これほど丁寧にサービスをやっても、「サービスはタダだ」という感覚が強いじゃないですか。価格も含めて「おもてなし文化」みたいな。

安田

確かに。

久野

やっぱり教育を変える以外に方法はないんです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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