第109回 依頼が殺到しても、安易に値上げしない理由

この対談について

「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。

第109回 依頼が殺到しても、安易に値上げしない理由

安田

今日は中辻さんに「値上げのコツ」をお聞きしたいと思います。というのも、値上げができなくて潰れていっちゃう会社ってわりと多いじゃないですか。


中辻

あぁ、確かに。でもなかなか「明日からこの商品を値上げしますね」とは言いづらいですよね。

安田

まあそうなんですけどね。ちなみに中辻さんご自身は「値上げ」についてどう考えていらっしゃいますか?


中辻

「値上げ」と聞いてまず思い浮かぶのは、自社サービスのことじゃなくチラシに使う「紙」の値上げですね。この数年で値段がすごく上がっていて、さらに石油も値上がりしているので、インクも運送費用も高くなっている。結果、チラシの印刷単価がどんどん上がってしまっています。

安田

ふ〜む、なるほど。中辻さんの会社では毎月膨大な数のチラシを印刷するわけですから、ダイレクトに影響がありますよね。でも逆に言えば、それを理由にチラシ印刷費も値上げできるんじゃないですか?


中辻

まあそうですね。たしかに実際ここ1〜2年で1枚あたり0.5円〜1円くらい上げてはいます。でも私たちは印刷を代行しているだけなので、そこは利益にはなりませんよ(笑)。それに、ポスティング費用については上げてないんですよね。今の価格が適正だと考えていますので。

安田

へぇ〜そうなんですか。…あ、そうか、そもそも「日本一高いポスティング会社」ですもんね(笑)。


中辻

そうですそうです(笑)。私たちがご提供できるクオリティに対して妥当な価格で設定していますので、値上げもしませんし、値下げもしません。

安田

なるほどなぁ。ちなみに中辻さんの会社は配布の予約が2ヶ月先まで埋まることもよくあるそうですが、「倍の値段を払うので、他の会社より早く配ってください」みたいなご依頼には対応するんですか?


中辻

そういったご依頼をいただくことは実際あるんですが、丁重にお断りしていますね。

安田

へぇ、それはどうしてですか?


中辻

うーん、すでに直近のご依頼を休止しているってことは、要するに他のお客様の配布が立て込んでいてすぐに対応できないってことなんですね。つまり既に私たちのキャパシティはいっぱいだってことです。つまり端的に言って「対応できない」んですよ。

安田

ああ、なるほどなるほど。クオリティに徹底してこだわる中辻さんらしいです。


中辻

ええ。お金をいくらいただいてもクオリティが担保できないのであれば、ウチの会社でやる意味がないのかなと。スタッフに関しても同じで、誰でもいいから増員して儲けよう、とは思いません。「忙しい時期だけスタッフを増員して、とにかく数をこなす」なんていう方法は、ウチでは絶対やりませんね。

安田

は〜、さすがです。でもなんというか、既存の企業さんより「おいしい」ご依頼をしてくれる企業さんが現れることもあるじゃないですか。そういう場合に既存顧客との取引をやめてそっちを取ろうか、みたいな選択肢が頭に浮かびませんか。


中辻

いや〜、浮かばないです(笑)。 もちろんそうできる方が「経営者」としては正しいのかもしれませんが…。それこそ起業したての苦しい時期からずっとお付き合いしてくださっているお客様もたくさんいらっしゃいますからね。その時のご恩をすごく感じているので。

安田

重ね重ね、中辻さんらしくていいですね(笑)。ちなみに今回は「値上げのコツ」についてお聞きしようと思っていたんですが、中辻さんはあまり途中でポンポン値上げするタイプじゃないんでしょうね。逆に言えば、サービスを始める段階でちゃんと適正価格をつけておくというか。


中辻

そうですね。最初から「自分が売りたい価格」を設定し、そこに自信を持って売っていくのが基本だと思います。ただ、さっきの紙の話じゃないですが、致し方なく値上げすることはありますよ。でもそんな場合も、自社の商品やサービスに魅力を感じてくださっているのであれば、お客様はついてきてくれるんじゃないかな。

安田

なるほど。サービス展開した後でも、状況によっては値上げはしていいと。


中辻

ええ。それを行う正当な理由があるなら全然いいんじゃないですかね。仮にそれによってお客様が離れてしまったのなら、そもそもの品質に問題があったんじゃないかなと。

安田

なるほどなぁ。いや、今日はあらためて中辻さんの「経営者としての覚悟」を聞けた気がします。そういうブレない姿勢が、今の成功につながっているんでしょうね。

 


対談している二人

中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役

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1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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