第113回 経営者を「綺麗に」引退するために必要なこと

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第113回 経営者を「綺麗に」引退するために必要なこと

安田
今日は「我々世代の社長の終わり方」について鈴木さんとお話していこうかと思います。

鈴木
なるほど、この対談のテーマにふさわしい内容ですね(笑)。
安田
確かに(笑)。ちなみに「我々世代」と言っていますが、鈴木さんって今おいくつでしたっけ?

鈴木
57歳です。
安田
私が60歳なので、では60歳前後を「我々世代」としましょうか。鈴木さんの周りにもその年代で現役の社長をされている方たちが大勢いると思いますが、皆さんどういう風な「終わり」を考えているんでしょうね?

鈴木
60歳くらいだと、まだはっきりと「終わり」を見据えている人はいないんじゃないかなぁ。
安田
事業継承とか売却とか廃業とか、ある程度のイメージもない?

鈴木
あんまり考えていないんじゃないかなぁ。「ぼちぼち考えとかなあかんな〜」とは思っているんでしょうけど、具体的に動いているかというとそうではない。ある意味、葬儀と一緒かもしれないですね(笑)。
安田
ああ、なるほど(笑)。しっかりしているうちに考えておくべきだってわかってはいるけど、どうしても先延ばしにしちゃうというね。まぁ実際、会社の終わりも人生の終わりも、なかなか現実味がないですもんね。

鈴木
そうそう。特に今の時代だと60代は「まだまだ現役」という雰囲気ですし、実際お子さんがまだ大学生だったりする人も多いですよ。そうなると余計に「引退」なんてしている場合じゃないというか。
安田
ああ、確かにそうですね。そうなると、仮に息子さんに事業継承するにしたって、あと10年は頑張らないといけませんよね。…ともあれ、最近は身内への事業承継って減っている気がしませんか?

鈴木
うーん、どうやろなぁ。事業の状態によるんじゃないですかね。それこそ既に業績が苦しいなら、わざわざ子どもに継がせることはしないでしょうし。
安田
ああ、そりゃそうだ。今現在うまくいっていない事業だったら、かわいい子どもには継がせないと思います(笑)。

鈴木

ね(笑)。でも息子の方から「俺がなんとかするから継承してくれ!」って言うパターンもあるかもしれないですよ(笑)。それくらいの野心家なら、あるいはV字回復してくれちゃうかもしれないし。

安田
確かにそうかもしれない(笑)。ちなみに鈴木さんがお父様から事業を引き継いだ時はどうだったんですか?

鈴木
「俺がこの会社を絶対デカくしたるぞ!」という野心があったので、なりふり構わずにやってきました(笑)。
安田
素晴らしい(笑)。ちなみに鈴木さんの肌感覚的に、「身内に継がせたい」と思っている社長さんってどれくらいの割合でいそうです?

鈴木
「継いでくれたら嬉しいな〜」というのも含めて、半分くらいはいるんじゃないかという気がします。
安田
半分くらいですか。思ったより少ないですね。それこそ私たちが20代30代の頃って「会社は身内が継ぐもの」という暗黙の了解がありませんでした?

鈴木
ありましたね。7割とか8割くらいの人が、親の会社をそのまま継いでいたような。でも最近はM&Aなどの選択肢を取る経営者も増えてきましたよね。昔は「会社を売る」ということ自体がものすごくネガティブなことだったけど、今は全然そんな感じじゃないし。
安田
確かにそうですね。むしろ大きい会社の資本が入って給料が増えたりして、社員に喜ばれたりね。身内にとっても「お金」として資産を残せるからわかりやすいし。…ただこれは、実績がいい時にM&Aをした場合ですけど。

鈴木
それは間違いない。業績が悪い会社なんて安く買い叩かれてしまいますよ(笑)。
安田
本当ですね(笑)。ところで「誰に引き継ぐか」も大事ですが、そもそも我々世代の経営者さんたちって何歳くらいまで働き続けようと考えているんでしょうかね。今の時代、サラリーマンだって70歳や75歳まで働いたりするじゃないですか。それこそ経営者なら、一生現役でいるという選択だってできるわけで。

鈴木
それこそ昔は「死ぬまで現役で居続ける」という人も多かったですよね(笑)。とは言え今は、以前よりはもう少し早めにリタイアを考えている人が増えているんだろうと思います。中でも「次にやること・やりたいこと」が決まっている人は、わりとスパっと引退できると思っていて。
安田
ああ、わかります。逆に言えば、そういう目標もなくて、会社以外に居場所がない人は残りがちですよね。社長の立場がなくなれば誰も話を聞いてくれなくなるんじゃないかって、怖くなるというか(笑)。

鈴木
本当にね(笑)。だからこそ「社長以外の居場所」を早めに準備しておかないと。
安田
我々世代の社長が潔く引退できるかどうかは、「次の居場所」がちゃんと準備できているかどうかにかかっているんですね。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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