その171 散財

近ごろ楽しみにしている動画チャンネルで、ファッションデザイナーの方がやっているものがあります。

その方は国内でかなりの成功を収めたブランドを運営しているデザイナーで、昔はそういう方は表に出なかったようですが、このご時世、マーケティングの一環として、いわゆるしっかりした「演者」として動画に出ています。

そういう方のコンテンツでおもしろいのは、やはり専門分野に関する好きずきです。どんな同業者を評価しているのか、いま製品として関心があるのは何か。
具体的な企画では、最近買って気に入ったモノの紹介です。

「何を買った」というような動画は、ネットの有名人から、芸能人、市井の人にいたるまでいろいろなところにあふれています。
しかし同時に、受け手はその多くが単なるネタでしかないことに飽きています。特に著名人の場合、ちょっとした趣味の紹介を兼ねるくらいで、コンテンツのために用意した稼ぐための小道具であることを理解しています。

デザイナーの方の「何を買った」は、それとはちょっとニュアンスを異にしていました。
そこで紹介されていた、海外ハイブランドの何十万もする靴やバッグは、著名人のセレブアピールとは違い、「プロである自分はこれならば認める」という基準をモノにたとえたものです。
逆にいえば、単純な好き嫌いではなく、他社製品を勉強する意味があったり、自分の商売も最終的にこのレベルに達したいという意思を開陳したものでもあり、ややもすればご本人には煩わしいかもしれません。

ただし、その「何を買った」には、必然性が感じられるのです。

ファッションの世界で生きる人は、どうも例外なく、自分の財布をひっくり返してモノを買い続ける定めを背負っているようなのです。
学生のとき、バイト代を貯めて必要でもない靴を買う。
就職して、カップラーメンをすすりながら可処分所得が全部服に変わる。
そんな生活の先に奇跡的に成功した人が、大して使わないことは知っていても、100万円の革のバッグを美しいから買うというのは、ムダだけれど人生には必要な行為なのです。

まあ、週末しか履かない靴を探して、週末を家で全消費するわたくしがムダを語ってもアレですが……
 

 

この著者の他の記事を読む

著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

リーマン20年のキャリアを3ヶ月分に集約し、フツーだけど濃度はまあまあすごいエッセンスをご提供するカリキュラム、「グッドゴーイング」を制作中です。

感想・著者への質問はこちらから