第357回「賞与を給与化する狙い」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第356回「ゆるい転職と遠回りな採用」

 第357回「賞与を給与化する狙い」 


安田

ソニーが賞与を給与化するというニュースがありまして。

石塚

さすがはソニーですよね。

安田

これはどういう意図なんでしょう?今までは逆だったじゃないですか。給与は1回上げると下げられないので賞与を増やしていこうと。

石塚

賞与だったら業績が悪くなったらカットできますからね。

安田

ですよね。なぜわざわざ賞与を給与化するのか。

石塚

優秀な人材を「確保しておきたい」ってことですよ。

安田

賞与を給与化することで実現するんですか?

石塚

賞与って変動幅が大きいほど先が読めないじゃないですか。

安田

業績連動ですからね。

石塚

だけど「このポジションは必ずこの金額がもらえる」となったら安定しますよね。30代後半〜40代の優秀な人材を繋ぎ止めるには安定性が必要なんです。

安田

優秀な人ほど業績連動を求めそうなイメージですけど。

石塚

住宅ローンとか、子供の学費とか、お金がかかる年代なので。これを機にソニーは年俸化するつもりなんでしょう。

安田

年俸制にするメリットは何ですか?

石塚

年俸制ってことは「人事評価でどこのグレードになるかが決まる」ってことです。ソニーではこれを「ジョブグレード制」と言ってます。

安田

下げやすいってことですか?

石塚

まず優秀な人をすごく上げやすい。優秀な人を外からも採用しやすい。もちろん仕事の評価によってはグレードを下げることもできるわけです。

安田

賞与をなくしてジョブグレード制にする意味がイマイチ分からないんですけど。

石塚

グレードで年俸が決まるってことは、若い人にもいきなり高い提示ができるじゃないですか。

安田

それは賞与でも出来ますよね? 

石塚

賞与って不安定なんですよ。会社全体の業績に連動していますし、そもそも大企業の賞与って年功序列ですから。

安田

え!賞与って実力評価じゃないんですか?業績連動型なのに。

石塚

いわゆる大手企業と言われているところは事実上年功序列で賞与が出るんです。

安田

なんと。じゃあそこにメスを入れるってことですね。

石塚

おっしゃる通りです。賞与を給与化することで20代も採りやすくなるし、優秀な40代や50代も確保しやすくなる。もちろん下げることもできる。

安田

だから「夏冬2回のボーナスを支給しなくなるかもしれない」って書いてあるんですね。

石塚

完全に無くすかどうかは分かりません。14ヶ月に分けて1/14づつ夏冬に賞与として上乗せ支給するとか。ただ年間支給額は最初に決まるってことです。

安田

じゃあ年功序列でたくさんボーナスをもらっていた人たちは、実質的に年収が下がっちゃう?

石塚

実力がない人はグレードが下がりますから。そうなりますね。

安田

そのための給与化なんですね。年功序列で払い過ぎていたボーナスを若い層や優秀な人たちに回していくと。

石塚

そういうことです。単に年功序列で上がってきた人たちは降格減給になります。

安田

それって社員は納得するんですか。労働組合が怒ってきたりしませんか?

石塚

今は激烈な闘争をしている組合なんて無いから。労使協調路線も長いですし。これからは個人の評価が良ければ上がるしダメなら下がりますよって。

安田

それで納得しちゃう?

石塚

せざるを得ないですよね。会社が倒れちゃったら意味ないですから。

安田

世界で戦っていくためには実力主義にするしかないと。

石塚

それもありますし、放っておくと優秀な人ほど転職しちゃうから。今は45歳以上でも優秀な人だと辞めていくので。そこを引き止めたいし、他社からも引き入れたいし。

安田

転職する人がそんなに優遇される時代なんですね。

石塚

しがみつく人ほど下がっちゃうってことですよ。これからいろんな大企業がどんどんソニー化していくと思います。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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