地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第79回 なぜケーキ屋はパン屋の「人手不足」を解決できるのか?

祖父が製造卸の会社をやっていた影響もあって、法人向けに商品を卸す、BtoBtoCの形は考えたことがあるんです。駅や空港には実際に卸していたこともありますし。あとは美容院向けの商品を開発して、全国的に置いてもらえないかなとか。

なるほど。あくまで商品を軸に考えるわけですね。ではもし仮に今、スギタさんが「人材ビジネスを一緒にやらないか」と誘われたらどうしますか? 飲食業界は深刻な人手不足ですから、ニーズはすごくあるわけで。

人材ビジネスですか。正直、僕が関わることで劇的に人が採用できるようになるイメージは湧かないかもしれない(笑)。それよりも「オペレーションの改善」や「サービスの質を向上させる」という支援の方が価値を提供できる気がします。

僕自身、飲食店での実務経験もありますし、ホスピタリティについても学んできましたから。現場に入ることで、より少ない人数で効率的に回せるようになったり、スタッフの気配りでリピート率が上がったり、といった貢献はできるかもしれないなと。

そこでケーキ屋の発想でオペレーションを大きく変えた結果、少ない人数と短い労働時間で、高いパフォーマンスを出せるようになって。もしかしたら同じ飲食業の中でも、そういう「当たり前の壁」を壊せる可能性があるかもしれない。

まさにそれですよ。業界の人が「これは絶対必要だ」と思い込んでいる先入観を、スギタさんのような異業種の視点から覆す。それによって「待遇改善」や「採用力アップ」という、大きな価値が生まれるわけです。

ははぁ、安田さんと話していると、いつも視界が広がります。僕らはつい「オペレーションを改善する」という目先の課題に囚われがちですけど、それが「採用課題の解決」という、より大きなストーリーに繋がるわけですね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。